火神は細かい。
どこがっていうと、オレに言わせれば全部だ。洗濯物は回したらすぐ干せっていうし(その前に脱いだ服はそのへん散らかすなとか帰ったら着替えて洗濯機回せとか)、ご飯食べたらお皿はすぐ洗えっていうし、風呂場の換気扇は水気とってからにしろっていうし。掃除機だって週一でかけなきゃ気がすまないし、出した本は元の場所に戻せってしょっちゅういうし靴下脱ぎっぱにするなっていうし鞄は自分の部屋置いとけっていうし見てないときはテレビつけるなっていうし昨日なんか「黄瀬くん」
「何? 黒子っち」
「…いえ」
高校生のときはいつも三人で寄っていたマジバに黄瀬くんとふたりで向かい合い、そのテーブルで黄瀬くんは拗ねたようにジュースをすすっていた。ボクにはいつものバニラシェイクをおごって、先ほどから延々と同居人についての愚痴を吐き続けている。
「もぉさあ、なんつーか…火神って高校でもあんなだったスか?」
「あんな、とは?」
「細かいっていうか、とりあえず口うるさくて母親みたいな」
「…いえ。どちらかといえば火神くんは、ロッカーの整理整頓で日向先輩によく叱られるようなタイプでしたよ」
「…えぇぇ〜?」
納得いかないという風に非難の声を出されても、事実は事実なのだから仕方がない。またずずーっとストローからジュースを吸い上げて(大変行儀が悪いですとは言いづらい雰囲気だ)、また不満そうに口を開く。
「でもオレ、なんか毎日怒られてる気すんスけど。火神は言うとおり、全然散らかしたりしないし」
「見栄でもはってるんじゃないですか」
「みえ?」
「黄瀬くんの前ではいいかっこしいなんですよ。無理があるならそのうちボロが出るでしょうし」
火神くんも面倒な人だと思いながら、目の前の男の方が何倍も面倒くさいということをボクは知っていた。そうやって文句を言いながらも、首元に下がるリングをいじる動作が何回も繰り返される。キミ、癖がうつってますよ。そんなこと、いってなんかやりませんけど。
「黄瀬くんが構って欲しいタイプだってことを、火神くんはよく分かってるんでしょう」
だから、顔真っ赤にして照れたりする前に、くだらない文句を言うのはさっさとやめてくださいね、黄瀬くん。
それだけ文句いわれてるってことはキミの態度も同じように思われてますよ!とはいいません。黒子っちだから。ただの惚気じゃねえかともいいません。黒子っちだから。