読んでいた教科書のページをめくりながら不意に顔をあげたら、テーブルの向こうに見える和室で何かの雑誌を真剣に読む黄瀬の頭が目に入った。時折髪を耳にかけるのが文字を真剣に読む時の癖だと気づいたのは、そう昔のことではなかった。
ここから見えるのは細かく段分けされた文字列だけだったので、誰かの対談でも読んでるのだろうとアタリをつける。真面目にモデルをやってみようと思って、そう相談されたのはつい最近だった。バスケもやりたい、でもモデルも捨てきれない。だから少しの間、両方真剣にやろうと思うんス。あれほど決意した顔というと、高校の時以来だったろうか。
「黄瀬」
なんとなく呼んでみた。その後ろ頭がこっちを向かないかと思っていっただけだったのだが、黄瀬はオレが呼ぶのと同時、まるで犬が耳をぴんと立てて主人を探すような仕草をし、その末に振り向いてオレの目を見返した。
「火神っち、今呼んだ?」
「…呼んだ、けど。…ふはっ」
「え、なにイキナリ」
呼んどいて笑うとか感じ悪、拗ねたような声。口元を押さえてくっくっと喉で笑っていたら、もー! の一言と一緒にクッションがとんできた。ついでに本人ものそのそとソファにやってくる。ぐるりとテーブルを回る間に、もう一度。
「涼太」
「っ、んな、なんスかってだから」
「呼んだだけ」
「なんなんスかー!」
黄瀬で遊ぶ火神っち
なんかかわいーなこいつって思ってたりするといい