はいた息が白く伸びる帰り道、おしるこの缶とコーヒーの缶を持って公園のベンチへと走り寄る。ベンチに座っていた真ちゃんがオレを見上げて、遅いのだよと小さく文句をいった。そんな悪態ですらオレにとっては愛言葉だ。

「ゴメン、いつもの自販が何か壊れてたっぽくてさ」
「自販機が?」
「そうそう、だから向こうのコンビニまで行ってきた。同じのあってよかったよ」

はい、手渡す。手袋を外した真ちゃんの細い指がそれを受け取って、見つめるそれが少しさまよったあとで視線がかち合った。ぎゅっと眉間にしわを寄せて、「…ありがとう」不本意そうな声。すぐに逸らされてしまったのがもったいない。

「どういたしまして。真ちゃん寒くなかった?」
「…平気だ。オマエのマフラーもあるしな」
「うん。寒かったら言ってね」
「ああ」

隣に腰掛けて、しるこ缶のプルタブを開けてあげた。指先が真っ赤になっている真ちゃんの指では開けられないだろうと思ってやったのだけど、余計なことをするなと怒られてしまった。何だかオレ浮かれてんのかもな、自分のコーヒーも開けて口をつける。じわりとした温かさが心に滲んだ。

ちらりと隣を窺ったら、少し短めのスカートから見える白い足が寒そうに見えて、反射的にそこに触れてみた。思ったより冷た、

「う、わ! ななななにをしているのだよっ!!」
「あいって! い、いや別に、寒そうだなって思って」
「だからって許可もなく触るな! セクハラ!」
「恋人同士のスキンシップをまさかのセクハラ認定!?」
「オマエなどただの変態で十分なのだよっ」

べしっとチョップをかまされた。確かに無言で触ったのも悪かったけど、そんな顔真っ赤にして怒ること…いや真っ赤になってる真ちゃんがめちゃくちゃかわいいから結果オーライだな。グッジョブオレ。

まったくと呟いた真ちゃんは照れ隠しのように最後のおしるこをあおって、にやにやを手で隠すオレを完スルーしたままやをら立ち上がった。そこから公園の真ん中にあるゴミ箱に向けていつもと同じように缶を放る。綺麗な放物線。線対称になったそれは真ちゃんが描いた軌跡のまま、かしゃんとカゴに収まった。

「ナイスシュート」
「ふん。当然なのだよ」

得意げな顔、それがやっぱりなんともカワイイと思う。オレも立ち上がって、(さすがにここからじゃ入らない、し、そんなのはカッコワルイので)コーヒー缶をベンチに置いた。真ちゃんの手を取る。細くて綺麗で、ここから生まれる軌跡もとても美しい。ゆるりと指を絡めて、飴玉みたいな瞳を見返した。

「…真ちゃん」
「…何だ」

染まった目元にキスがしたいなと思った。けど、両手がふさがっている状態じゃ真ちゃんの眼鏡を外すことが出来ない。代わりに額にちゅ、と唇で触れる。嫌そうな顔、かわいいと言葉でいうことすら出来ないほどの。ねえ真ちゃん。

「…将来オレと、バスケチームを作りませんか!」
「台無しなのだよ!!」

ごすっと鈍い音がした。目の前に星が降る。真っ白な視界の片隅で思った、わぉ、オレ真ちゃんに殴られたの初めてかも!

「今までの雰囲気は何だ! ムードをクラッシュするな愚か者!」
「真ちゃんそれじゃルーみたい…あ、ダメちょうくらくらする」
「お望みとあらば地の底まで叩き込んでやろう」
「遠慮しますスミマセン!」

その場に伏して全力で謝罪。怒ったときの真ちゃんはマジで怖い、しその上機嫌を直すのもかなり難しい。まあオレは、そんなめんどくさい真ちゃんが大好きなわけで、そんな真ちゃんだから一緒にいるわけで。…ちくしょう、アレ結構考えて厳選したセリフだったのに!

「今まで聞いた中でも最悪のプロポーズだったな」
「えええ〜…だってさあ、真ちゃんバスケ好きだろ」
「…まあ」
「バスケが好きで、手つなぐのが好きで、シュート成功後っていうベストタイミングだと思ったのに…」
「…オマエはセリフ自体に問題があるとは思わないのか」

じんじんと痛む頭に追い討ちのようにため息が降る。内容云々はともかく、これって結構やっちゃいけないタイプの失態ではないだろうか。オレ最悪。今度こそ愛想つかされたらどうしよう。

抱えた頭に、ぺたりとつめたい手のひらが触れた。顔を見ようとしたのを止められて、額にそっと柔らかい熱が与えられる。見えたのは寒そうな足と、膝を支えるちいさな手。オレのマフラーをぎゅっと握って、触れたと同時に背を向けて。

「…バスケチームは無理でも、家族くらいにならなってやるのだよ」

ぼそぼそと紡がれた言葉。胸がぎゅうっと締め付けられる感覚、








抱きしめたのは、という名の。
(真ちゃんだいすきあいしてる!!)
(うるさいバカ尾)