「ねえ、ずっとそばにいてくれる?」


オレに乗り上げて儚げにわらう黄瀬は、その目からぽろぽろと涙をこぼしていた。落ちた雫はオレの頬に目にあたって弾ける。しみていく。黄瀬のかなしみとか不安とかそういうものが全部合間って、オレの心に愛しさがこみ上げる。お前って本当、ネガティブにもほどがある。

声が出せないのでちょっと笑ってみようと思ったけど、ぐっとこめられた力にそれは叶わなかった。思わず顔をしかめる。黄瀬の眉間にしわが寄ったのを見て、あ、やばい失敗したと背中に冷や汗が伝った。


「…かがみっちもおれをすてるの」

「んなわけ、なっ、」

「おれのそばからいなくなるの。おれなんかいらないんだろみんなそうだ、みんなおれをすててったよあおみねっちもくろこっちもみどりまっちもみんなみんなみんなみんな!!」


呼吸が一瞬止まった。それほど力は変わらないとはいえ、本気で押し付けられたらさすがに無理だ。
視界に星がとんだら、喉から変な音がしたのを聞いたのか黄瀬が突然飛び退る。落ちる、と反射的に起き上がって手を掴んだ。振り払われずにその体を支えられた。咳と一緒に嘆息が出る。


「お前っ、…あぶねえ、だろ、ほんと」

「…か、がみっち…おれ」

「げっほ、…ったく。カンシャクはいいけど、お前ほんと」

「かがみっち、…かがみっち、かがみっち」


しょうがねえな、と思う。ぎゅうっと抱きついてくる力は、さっきのとは比べ物にならないほど弱い。こいつはオレを失わないためなら全力でしてくるくせに、オレをつなぎとめる術を知らない。不器用なんだと聞いたことがあった。確かにそうだ、こいつは本当に、傷つける以外の方法をとることができなくて。

きせ、今度はオレがさっきくらいの力で抱きしめてやる。パニックになっている頭にも届くように耳元で名前を呼んだ。きせ、なあ、オレはお前に何をしてやったらいいんだろうな。弱弱しくオレのシャツをつかんでぐずぐずと泣く黄瀬は、オレがいないと息も出来ないと切なそうに謝罪をしていた。なのにオレを傷つけることがやめられなくて、それからオレを疑うことをやめられない。オレを、というよりはオレを取り巻く環境、というか。


「好きだよ、黄瀬。ずっとお前の側にいる」


だから不安がるなよ。言葉なんて信じられないだろうけど。うん、と笑った黄瀬はとても綺麗だったけど、こんなことはきっとこれからもずっと続いていくんだろうと思った。








のメビウス
(それでもオレは構わないから)
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