眼前の男は目をキラキラとさせて、ついでにオレの足に乗り上げて上目遣いで首を傾げていた。オレはというと冷め切った目でそれを見返して、心底嫌そうな顔をしている、と、思うのだが。
「火神っち、プッキーゲームしよ」
お菓子をくわえたままもごもごと言う。にっこりと営業用みたいな笑みを浮かべて、その辺のグラビアアイドルみたいなポージング。ぐっともきゅんともこないシチュエーション。嘆息が漏れる。
オレのしらけた反応にもめげない黄瀬は、火神っちノリ悪いっスぅーなんて気持ち悪い声を出しながら、オレの足を勝手に広げてその間に座り込んだ。痛い、し、邪魔だ。こいつどんだけ自由人なんだよ。
「やんねえよ、バカか」
「えー、いーじゃん」
「菓子会社のコマーシャルみたいなもんだろ。んなもんいつ買ったって同じだ」
「買うのは同じっスけど、やるのはちゃんとイベントに合わせないと!」
「それこそもう過ぎてんだろが」
「だぁってー、今年は平日だったんスもん、火神っちに会えなきゃ出来ないの当然じゃないスか」
「…ヘリクツ」
「ムズカシー言葉知ってんスね」
けらけらと笑う。どうだっていいし、後さっさとどいて欲しい。
黄瀬は明確な拒否をしないオレの意思を肯定と勘違いして、読んでいた雑誌を遮るようにして近寄ってきた。口にくわえてるのが棒状の菓子のせいでその距離は容易に縮まってしまう。正直危ない。
「近づいてくんなっつの」
「あんでスか」
「なんでじゃねーよ。何がしたいんだよお前」
「だから、プッキーゲーム。ポリッツよりプッキーのがチョコある分甘い雰囲気出ると思うんスけど」
「そういう問題じゃ、…ったく」
こいつには何をいっても無駄だと分かってはいるが、いつもこうしてどうにか諦めさせようとか試みたくなるのは考え物だと思った。どうせこいつはオレの言うことなんか聞きやしない。それでも、なんというか、ワガママを許容してばかりだとこいつが更に調子に乗りそうだと抵抗してしまう。それすらも楽しまれている気がする。
ため息をついて雑誌を閉じたら、黄瀬の表情からにやにやからにこにこに変わった。オレが諦めたっていうのが分かったからだろう。憎たらしいと思う、それ以上にその笑顔が可愛いと思う。
もう末期だな、思いながら黄瀬の後ろ頭に手を伸ばす。短めに見えたその菓子はあっさりと折れて、オレと黄瀬の距離をいとも簡単にゼロにした。
零距離射撃の愛好歌
(どうにだってなっちまえ)