ぽかぽかとさす、初夏独特の陽射しに目を細める。特に何をするでもなく座りこんだ噴水の縁で、僕は仕事帰りの恋人(かなり不本意だが世間一般ではこう言うらしい)とのんびり景色を眺めていた。
「いい天気だなー」
「そうですね」
「もう夏だな」
「そうですね」
「………」
俺グラサンでもしようかな、なんて意味不明なことを呟く彼。(似合わないこともないとは思いますが)(なんて、絶対いってやらない)
「…あ、ボール」
「ん?」
またぼんやりと景色に目を戻すと、少し離れたところで草野球をやっていた少年が二人ほど、とばされたボールを追ってこちらに駆けてくるのが見えた。すみません取ってくださーい、言うわりには近くまで寄ってきた少年に、はーい、と返してボールを拾い上げる。
「はい、頑張ってください」
「ありがとー!」
グローブに得意気にボールを収めて、少年はちょっとだけ考えてからディーノの方をちらり、見て。
「オジサン、さっきからここでなにやってんの?」
ぶっ、彼が飲んでいたコーヒーを盛大にふきだした。(…今回は何も言わないでおこう)
「…オジサンじゃなくて、オニーサンな」
「ええ〜。オジサンいまいくつ?」
「オニーサンはまだにじゅうにですよ」
「オレなんかじゅーいちだぜ、ハタチこえたらみんなオジサンだろ」
笑っちゃいけないと思いつつもこらえきれない笑いを噛み殺して、終始笑顔で応対する彼をすぐ横で盗み見る。
「君もすぐにオニーサンになって、オジサンって呼ばれることの痛みを知ることになるから」
「知らねーよ、オレまだ若いし」
「いいからオニーサンって言っとけ」
後々後悔すんぞなんて、『オニーサン』らしからぬ子供っぽい発言。少年はグローブをボールで何度かたたいて、渋々といった風に分かったよ、と口の先を尖らせて言った。
「ほら、みんな待ってるぞ?」
「はーい」
ディーノが指先で促してやると、少年はキャップをかぶりなおしてまた渋々と頷いて。
「ボールありがと、オニーサンとオネーサン!」
ひだまりにて。
(…………)
(…今日お前私服だから)
(……………ちょっと締めてきます)
(いやいやいや落ち着けオネーサン!)
(黙れオジサン)