「世は無情っスよね」
夕方のマジバにふたりきり、というあまり歓迎したくない状況で、目の前のバスケプレイヤー兼モデルは顔を両手で覆って長々とため息をついた。
「…心底聞きたくねえけど聞いてやる。どうした」
「オレ、火神っちのそういう不器用な優しさスキっスよ」
「お前に好かれてもしょうがねえだろ」
かがみっちつめたい、顔を見せないままでうなるように言う。どうやら今回の傷は思ったよりも深いらしい。いつものようにどっちだよと小突いてやる気にもなれず、再びこみ上げたため息を飲み込んでポテトをくわえた。
「またフラれたのか」
「…フラれたんじゃないス。捨てられたんス」
「どっちでも一緒じゃねえの?」
「ニュアンスの違いっスね」
「nuance?」
「別れましょう、分かりましたっていうのがフラれ。もう黄瀬くんつまんないダイッキライっていうのが捨てられ」
「…そりゃお疲れだな」
「……もっと労わってよ」
あげられない頭に手のひらを置いてみた。今にも泣きそうな声に、こいつは何を求めてそんな女をとっかえひっかえしてはフラれているんだろうと考える。
こいつは顔がいいだけに、女は告白すれば大体はイエスと返事をするし、逆に告白される回数だって少なくない。それでも付き合いだしてひと月も経てば、同じようなセリフを重ねられてまたこうやって泣くことになる。さみしがり屋の社交好きのくせに、ふたりきりの保ち方は分からないらしい。
ぐず、と鼻をすすって顔を上げたその表情に、現役学生モデルの輝きはない。オレとしてはむしろこういう顔の方が女の心をくすぐるんじゃないかとも思うのだけれど。薄っぺらな話と表面上だけのほめ言葉なんてやめればいいのに。素直に笑って、泣いて、怒って、それだけでいいんじゃないか。
「…お前、もうちょっと素直になればいいのにな」
「いいって…どういう意味スか」
「無理しないで、そのままのお前として付き合えば、それが一番お前らしくて好かれるんじゃねえのってこと」
「…そっかな」
今みたいに、というのはやめた。獲物を待つなんてオレらしくない。火神っちにしとけばよかったなんてセリフ、鼻をこすって照れくさそうに笑うこいつに、また次のやつ探せよの代わりにカウントダウンを突きつけた。
オーバータイムリミット
(オレはもう、待ってなんかやらねえよ?)