室ちんはいっつもバスケをしてて、オレにあんまり構ってくれない。
「室ちん」
「どうした? 敦」
シューティングをしててもドリブルをしてても、室ちんはオレが呼ぶとちゃんと返事をしてくれる。でもそれはボールかゴールか地面を見ながらで、オレの声じゃバスケから室ちんを取り戻せない。それがもっとバスケをきらいになる理由になりそうで、オレはやっぱり室ちんの名前を呼んでしまうことになる。
「室ちんっていっつもバスケばっかし」
「それはまあ、バスケがスキだからね」
「…いやみっぽい」
「敦はまだバスケが嫌いか?」
「そういうこという室ちんはキライ」
室ちんの言葉を遮るようにして吐き捨てる。室ちんはそう、と笑ったきり、またボールとふたりっきりのデートに戻っていった。オレだっていっつも隣にいるのに。ぱり、とポテチをかじっても、今日はあんまり楽しくなれなかった。
その場でずっとボールをついたりハンドリングをしたりしている室ちんをぼーっと見ている間に、なんとなく室ちんはオレの言葉の続きを待っているのかな、と思った。室ちん、とまた呼んだら、手は動かしたままでなに、と今度はオレを見てくれる。それを見て思う。
「…でも、バスケしてる室ちんはスキだよ」
「うん」
「それじゃダメ?」
「…駄目じゃないよ」
それでもちょっとだけさみしそうに笑う室ちんは、きっとオレと同じように思ってるんだろうなあと思った。かじったポテチは、さっきよりずっとしょっぱかった。
微透明なひとみ
(噛み合わないのは、)
TITLE:にやり