からり。ころり。

瓶を横にして両手で持って傾ける。揺れる度にからりと転がるきらめきに、オレはひとりきりの部屋でふにゃりと笑った。

透明なガラスの向こうには、海で拾った貝殻がいくつか入っていた。室内と屋外を交互にバカみたいに走り回った昼間、何気なく見た足元に淡く虹色に光る貝殻を見つけたのだ。それは白色のなかに波のような虹を描いていて、真ん中に少しひびが入っていた。それがなんだか放っておけなくて、移動するちょっとの間に拾って瓶に入れておいたのだ。ちなみに瓶はその後海の家のおば…おねえさんにもらったやつだ。

きれいだなあと見つめていたら、不意にがちゃりとドアが開いてジャージ姿の真ちゃんがそうっと顔を出した。瞬間驚いたような顔をする。


「お、真ちゃん」

「高尾、…まだ起きていたのか」

「うん。おかえり」

「…ただいまなのだよ」


おおっ、何か新婚っぽい。横顔を追っかけるように見たオレに「にやにやするな」とにべもなく言い放った真ちゃんは、少し疲れたような表情ですぐ隣のベッドにぽふりと横になった。眼鏡を外すこともせず、そのまま腕を額にのせて目を閉じる。
疲労の見える目元にちょっと心配になって、瓶を横に置いて少しだけ身を乗り出した。


「…大坪サン、何か言ってた?」

「別に。いつも通りだった」

「そっか。疲れたならもう寝ろよ、明日も早いから」


布団をかけてやりたいところだったが、真ちゃんが丸ごと乗っかってしまっているのでそれも出来ない。はあ、と重たいため息をついた真ちゃんは今にも夢の世界へと旅立ってしまいそうで、夏場とはいえ風呂を上がったばかり、真ちゃん風邪ひいちゃうよなあとそれだけが心配だった。

考えたのは一瞬で、オレはベッドをおりて自分のベッドに乗っていた布団を持ち上げて真ちゃんにかけてあげた。自分は風呂をあがってからこの部屋から動いていないし、無くてもまあ大丈夫だろう。

なんだか離れがたくて、そのままベッドに乗り上げて真ちゃんの髪を撫でていた。閉じられたままの瞳が少し恋しかったけど、なんだかいつも反抗的な猫がおとなしくなっているみたいで悪くない。傷つけないように眼鏡を外してやったら、さすがに何か感じたのか薄っすらと目が開かれた。


「…高尾?」

「ん、ごめん。眼鏡危ねぇかなって思っただけ。オヤスミ」

「…オマエはいらないのか」

「うん。いいから寝ろよ」


まぶたの上にちゅ、と唇を落とす。真ちゃんは眠そうな目で一度瞬きをしてから、ベッドのギリギリのところに半分正座してるみたいに座るオレの足にくっつくようにして寝返りをうった。お、おわ。


「…し、んちゃん?」

「…さむいのだよ」

「そんなら真ちゃんの下にもう一枚あるから、」

「たかお」


もうちょっと移動して、そんな言葉はいわせてもらえなかった。胸がきゅううっと痛くなる。さむい、ともう一度囁くようにいった真ちゃんの頭を痛くないように、それでもちからいっぱい抱きしめた。こめかみにもそっとキスをする。ほんとに好きで好きでしょうがない。こんなに好きでどうしたらいいんだろう。


「…好きだよ真ちゃん」


側にいるよ。懇願するようなオレの声に、まどろみながら小さく、しっているのだよと笑った真ちゃんが愛おしかった。



入り流星群
(だからずっと、側にいさせて。)
TITLE:にやり
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