屋根の上、気温は多分10度ちょい。かなり寒い、真夜中のこと。
厚めの上着を着て膝を抱え込んで座ってたら、おしるこ缶をあっためて来た真ちゃんが屋根に上ってくるのが見えた。真ちゃんは寒がりだからオレよりもっともこもこだ。
「高尾」
「おん?」
「母親が、オマエにだと」
「おおっ、おかーさん気が利きますなあ」
差し出されたのは真ちゃんのとは違ってカップだったが、冷えた手にはちょうどいい温かさだった。紅茶の甘い香りがする。ひとくちこくりと飲んでみたら、じんわりとアールグレイの香りが体中を巡っていく感触がした。
「あーあったけー」
「…中年か」
「失礼な。まだぴっちぴちの十代ですよ」
うがっと反論したけれど、真ちゃんはそんなもの意にも介さずといった風にオレの隣に腰をおろした。馬鹿にしてても距離はとらない。ツンデレめ。
寒いのだよとちいさくこぼした声は少し震えていて、オレはささやかにでもそれが緩和されるといいと思いつつもうちょっとくっついてぎゅうっと抱きしめた。もこもこ真ちゃんもかわいいけど、こうやってくっついた時に恥ずかしそうに目を細める真ちゃんの方がもっとかわいい。真ちゃん家の屋根は下からだとかなり見えにくいからこそ許容される行為だ。今日が肌寒くてよかった。いや真ちゃんが風邪ひくのはダメだけど。
「寒いな。ちゃんと防寒してきた?」
「カイロとかも持ってるのだよ」
「ん、よかった。寒くなったらちゃんと言えよ」
「…オマエは大丈夫なのか」
「…オレもちゃんと着てるから、大丈夫」
抱きしめた手に、真ちゃんの長い指が添えられる。お互い手袋越しなのがもったいない、でも素肌だと冷たいって怒られそう。ゼロかヒャクか、よりは今の曖昧な幸せをかみ締めよう。折角デレてくれてることだし。
時計をちらりと見たら、ニュースで聞いた流星群がまもなく見えてくる時間だった。真ちゃんと初めて見る流星群。出会った日から重ねる初めては、もうどんどん少なくなっている。それが嬉しい。
「流星群でも、願いって叶うんかな」
「どうだろうな。そもそも流れ星に願いを託すなど、非科学的だとは思うが」
「…占い信者が何を言う」
「おは朝占いは実績と検証と根拠に基づいた科学的なデータなのだよ」
「んじゃ、叶ったって実績があれば信じるわけ?」
「再考してやってもいい、というくらいだな」
「この中途半端なリアリストめ!」
「なんとでも言うのだよ」
鼻の頭を真っ赤にして言われてもあまりバカにされた気にはならないが、おしるこをすするその目はそれでもこれから見えるものを楽しみにしているように見えて、オレはそれ以上言い返すのをやめた。
手袋越しに手を握る。真ちゃんは何も反応しなかったけど、一瞬だけそれを握り返す温度が伝わってきた。
ほんのりと甘い紅茶を飲み込みながら、今キスしたらきっと初恋みたいな味がするんだろうなと、流れ始めた星を見ながらくすりと笑った。
君といる明日のために
(例えば、)
TITLE:いつか消えます