君と見た景色が白く染まる
遊歩道にふたつ 足跡が続く
芽吹いた木々はきっと過去で
僕はここで 君を見ている








ついさっき見たばかりの「黄瀬涼太様 控え室」と貼り紙がしてあるその部屋で、オレはいつもとかなり印象の違う黄瀬と向かい合っていた。


「…何回見てもすげえ化粧」

「メイクって言ってほしいっスね。こんくらいしないと映像栄えしないんスよ、残念ながら」

「ふうん」


白くて長い衣装を汚さないようにしながらソファに沈む黄瀬は、ステージで見ていたモデルの仮面をすっかりはがして「明日の宿題やってねっスよー」とぼやいていた。

今日はどうやらプロモーションビデオの撮影だったらしく、カメラを構えたオッサンがスリー! というと上からたくさんの羽が降り、ついでに横からは弱くはない風が吹きつけ始めていた。その真ん中で俯きがちに立っている黄瀬の髪は乱れることもない。
掛け声と共に音楽が流れて、そのイントロが終わって歌が始まると、ようやく黄瀬がゆっくりと動き始めた。指先の動きや表情の変わりよう、やっぱりこいつもモデルなんだとはっきり思った。

歌はやや聞き取りづらいがかろうじて恋の歌だと分かって、しかも弱めとはいえ失恋ソングを恋人の前で聞かされるのはやや複雑な心境だ。だけど、羽が舞う中で優雅に動く黄瀬を見ているのは案外悪くなかった。衣装も似合ってるといえば似合ってるし、肌が白い分違和感もない。

最後のメロディが流れて終わる直前、カメラのすぐ下に座っていた若い男がなにか板みたいなものを黄瀬に見せた。視線を動かさないままそれを確認したのだろう黄瀬は、不意にオレの方を見て、いつもみたいに嬉しそうにへにゃりと笑った。




「…さっきの、なんて歌だ?」


歌が流れている時と最後の瞬間が脳裏に焼きついて忘れられず、それをごまかす様にして黄瀬に問いかけた。スカーフの端をいじっていた黄瀬はきょとんと視線を合わせてから、もたれているのと反対側にことりと首を傾げた。


「さっきの? なんだっけ、確かスノウスプリングとかそんな感じのタイトルだったと思うけど」

「Snow Spring、ね」

「春に雪が降るなんてロマンチックっスよね。桜の樹とか、花吹雪よりもほんとの雪のが綺麗かも」

「サクラ」

「えと、ほら、チェリーブロッサム」


咄嗟に出てこなかった花の映像が、黄瀬にいわれてそんなものもあったなと思い出される。日本で咲き乱れるピンク色の花、そういえばオレはまだ数回しか見たことがない。


「…桜って、出会いか別れかふたつにひとつなんスよね」

「何が?」

「歌とかそういうの。もっと全然関係なくてもいーのに」


出されたお茶を飲み込んで、なんとなく拗ねた、というよりは寂しそうな表情をしている黄瀬を見る。そいつはスカーフの先を指に巻きつけながら「…そっちいってもいい?」俯いたままで呟いた。見て欲しくないのかと思って、オレもお茶のカップをのぞきながら隣をぽんぽんと叩く。

そうっと立ち上がった割には座ったとたんにどすんと寄りかかられた。その金茶の頭がぐりぐりと肩口に懐いてきて、ため息まじりにいわれた「…来てくれてありがと」の言葉に、今日ここに呼ばれた理由が、初めてなんとなく分かった気がした。



に降るゆき
(巡る季節も無ければきっと、)
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