滅多に来ない東京の都会ど真ん中みたいな駅の改札、切符を通して視野を広げてみたら、同じくアバウトにこちらを見ていた先輩の姿を確認できた。すぐさま切り替えて駆け出すと、その先輩も気づいていたらしく携帯をぱちんと閉じてオレを迎えてくれる。
「俊サン、おはようございまっす!」
「おはよう、高尾。今日も早いな」
「俊サンこそ。いっつも一番すもん、オレ今日は最初に来ようと思ったのにー」
「オレが一番遠いから、早く出ないと遅れるんだよ」
頭にこつりと拳をあてられた。なるべくアクションをとらないようにしてえへへ、と返す。改札口は休日の喧騒を抱え込んで、一定の間隔でものすごい人ごみを生んでいた。お互いの性質が性質なので人ごみは正直苦手だったが、こうして直接会う機会の嬉しさの方が勝っている。特に今日は、久しぶりに4人で会える日だ。これを逃す手などない。
「隆サン、もうちょいで来るらしいっすよ」
「うん。笠松さんもすぐ来るって」
「久しぶりっすもんね、4人とも揃うのって。オレ楽しみすぎて夜しかぐっすり眠れなかったですよ!」
「夜ぐっすり眠れりゃいーだろ!」
「オレは昼寝もしたいタイプです!」
「はっ、鯛のタイプ…!?」
「あ、隆サーン!」
なにやらきゅぴーんとか言い出した俊サンをスルーして、改札からのほほんと出てきた隆さんに駆け寄った。走ったそのままの勢いでどーんと飛び込んで抱きついたのに、隆サンは微動だにせずにオレを受け止めてくれる。うーん男前!
「隆サンおはようございまーっす!」
「おはよ〜和くん、今日も元気だね〜ぃ」
「もちです!」
よしよし、隆サンの大きい手がオレの頭をかいぐりかいぐり撫でてくれた。隆サンは後輩を撫で撫でするのが好きらしいけど、自分とこの後輩は撫でさせてくれないから楽しくないとこぼしていたことがある。隆サンに撫でられるのって、結構気持ちイイのに。もったいない。
「春日さん、おはようございます」
「おはよー俊くん。ごめんね、遅くなって〜」
「遅いっていっても、まだ集合時間前ですよ?」
「うんにゃ、俊くんはまた早く来たんだろーと思ってさ」
「…ありがとうございます」
俊サンも撫でられてるのを、横でにやにやしながら見る。部内には二年生以下しかいないらしいから、そうやって後輩扱いされるのに慣れてないらしい。
ちょっとだけ俯いて照れ笑いする俊サンがかわいーなーとか思ってたら、最後の先輩がポケットに手をつっこんだまま改札を抜けてくるのが視界の端に見えた。再び全力ダッシュで駆け寄って、ためらいなくその真正面に満面の笑みで飛び込む。
「おはようごっざいまーす!!」
「うおっ、高尾!」
「今日もかっこいいっすね幸サン!」
「その呼び方やめろ!!」
油断していたらしくちょっとだけ後ろに下がった幸サンは、文句を言いながらもはよ、と苦笑してくれた。今日はいつものパーカーじゃなくて、なんつうの、タンクトップの上にちょっとした上着をはおったファッションで、…正直名前とか諸々は全く分からないけど、とにかく幸サンにとても似合っていた。隣を歩きたい男子ランキングなら確実に三本の指に入る。断言できる。
オレをずるずると引きずりながら幸サンも合流して、これで4人全員そろった。待ち合わせ時間より15分は早かったけど、いつもこんな感じだからみんな気にしない。
「んじゃ、どこ行きますかね〜」
「オレオレ! カラオケ行きたいです!」
「高尾が行きたいなら別にいいぜ」
「オレも異論なしです」
「そしたらあの辺、結構おっきいカラオケ屋あるらしいから行ってみよっか」
「やたー!」
貴重な休日、貴重な機会、にぎわう都会の景色を、大好きなひとたちと一緒に。
今日これからのことを考えながら、オレはあまりの嬉しさに一足先に駆け出した。
ハッピーホリディ!
(和くん行きすぎ〜こっちこっち)
(え!どこすか!…ていうか先輩たちどこ!?)
(…このまま隠れててみましょっか)
(なんか…やっぱりアイツかわいいよな)
(からかい甲斐があるってもんだよね〜)
(せんぱっ…ちょっ、せんぱいー!!)