奇跡とはなにかを考えてみた。





すうすうと寝息をたてる金色を見下ろした。ばかみたいに平和そうな顔をして、頭をのせた僕の太股の上で寝こけている。

むぎゅ、と頬をつねってみた。柔らかそうな印象を裏切ることなくやけに伸びる。面白がって散々いじくっていたら、金色が小さく呟いた。うにゃ、ってなんだ。寝言か。


(どうしてこんな、)


僕は世界の、少なくとも人間の闇と呼ばれる部分はおよそ見てきた。その記憶をいくら泳いでも、こんなに眩さをもつ光は見つけられない。マフィアは闇だ。そしてまた彼らは例外なく、その内に獣を飼っている。嫌でも滲む、それは不快な死臭。


(…いい匂いがする)


髪にそっと触れてみた。あたたかい日向の匂い。自らの主と仕える彼からも似たような匂いを感じるけれど、あれはこの金色ほど純粋ではない。彼は闇を取り込み飼いならすことで、自らを保とうとしていた。闇に染まらずと願い、深遠を傍らに置いて。


(………、)


きらきらと。光がはぜる。
身内が害されれば標的には容赦を見せず、冷血なまでの宣告をくだす姿__今の金色からはその片鱗さえ想像だにできない(その姿すら、僕はしばらく知らないままだったけれど)。

なぜ、と唇をかんだ。この汚い、薄汚れた世界において、なぜ金色のような綺麗なひとが存在し得るのだろうか。闇に沈みきった自分が触れても、金色にはわずかな翳りさえない。それがこんなにも、…しあわせ、だなんて。

鳶色が恋しくなって、またふにふにとした頬をつまんだ。今度はわざと強くひっぱってみる。眉間にしわがよって、寝苦しそうな表情になった。いやな夢でも見てるのだろうか。それでも構わないと思った。起きてください、きっと伝わらない願いをぽつりと。__…それが届かないと思っていたのは、ずっと僕の方だった。


「…ん、」

「__跳ね馬」

「…ああ」


まぶしそうに細められる鳶色。揺らぐ焦点が僕にあって、それから金色はそっとわらう。


「…おはようございます。ディーノ」




太陽の欠片。
(貴方の存在それ自体が、)
(僕にとっては、紛れもない奇跡。)


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