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付き合い始めて一週間、オレは初めて真ちゃんにおねだりをして、週末の夜、リアカーを転がして小高い丘にある公園に寄った。学校帰りにどこかへ寄るのはこれが初めてだ。何しろコンビニへ行っても自販機に寄っても真ちゃんはリアカーから降りようとしなくて、オレがおしるこを買って渡す、それだけのデートが常だったから。ルーティンワークから外れることを厭う真ちゃんのことだ。少し遠くに行かないかと聞いても、断られるものだとばかり思っていた。 「……別に構わない」 こぼされた声にオレが返せたのはへ?というなんとも情けないもので、なんだと睨みあげてくる視線をなんとか外して頭の中にハテナをたんまりと浮かべながらチャリを漕いだ。自分で寄り道しようと誘っておいて、嘘だろマジでいいの?なんて聞けるはずもなく、こうして辿り着いた公園でも話しかけることができない。何してんだオレ。 横目で見た真ちゃんは、それはもう自然にリアカーを降りて、下町の明かりが見える柵の手前まで勝手に歩いて行く。オレを放置すんなと言いたい気持ち半分、なんだか気の抜ける思いが半分。何、真ちゃん、もしかしてお前、今までも一緒に行こうって言ったら頷いてくれてたの。オレも後ろについていく。柵の向こうはすっかり夜だ。 「真ちゃん」 「なんだ」 「一緒に来てくれて、ありがとな」 思わずお礼なんてものを言ってしまえば、真ちゃんは呆れたように肩をすくめる。だってこれ、初デートだぜ、真ちゃん。オレがはしゃいじゃう気持ちも少しは分かってよ。興味が無さそうに柵に手をかける真ちゃんの、その左手にそっと右手をのせてみた。拒否されないことがこんなにうれしい。嗤っちゃうだろ、オレはこんなにもお前が好きだ。 「……高尾」 「うん?」 「オマエにひとつ、言っておきたいのだが」 「うん」 町の明かりをまっすぐ見ながら、ゆっくりと瞬きをする。光のうつるそれはまるでエメラルドだな、なんてことを思う。本物の宝石と比べても、きっとこの輝きは見劣りしないだろう。 「オレだって、その……オマエと一緒にいるのは、嬉しいのだよ」 「へ?」 「オマエばかり幸せだなどと、ふざけたことを思うのはやめろ」 だからオマエは駄目なのだよ。聞きなれたその声が夜の帳にしっとりと落ちる。きらきらとしたこの光は、きっとお前がわらうからだ。
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