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こたつに体を半分つっこんで、キッチンに立つ背中をじっと見た。手の中でごりごりと白い粒を粉にする。よく分からないが今日の料理に使うらしい。アメリカ帰りのこいつの家にすり鉢なんてものがあることにまず驚いたが、家庭科の調理実習以来とんと見ていなかったそれは、こたつの上に鎮座すると随分と風流な置物のようだった。 「黄瀬ー。ゴマできたか」 「んー……もうちょい」 「そんなやけになって粉にしなくてもいいからな」 「分かってるっス」 すりこ木を握ってざりざりしているだけなのだが、なんとなくオレにも料理を手伝えているような気がして、思ったより粉っぽくなっているゴマをまだずりずりとつぶしてみた。キッチンに立った火神は、赤いエプロンがよく似合う。食堂のおばちゃんみたい。三角巾をしている火神を想像して、あいつ将来小料理屋でも開けばいいのになあとひとりで頷いた。火神の作ったご飯を自分じゃない誰かに食べさせるのは気に入らないけど。 「火神っちー」 「ん? どうした」 「火神っちさあ、将来ご飯屋さんやるといいっスよ」 「飯屋?」 「そうそう。唐揚げとか、サラダとか、はるさめサラダとか、ポテトサラダとか」 「後半サラダばっかだな」 「だってオレ専用のご飯屋さんだもん」 ゴマには見向きもせずにそう言うと、火神はハァ?って感じの顔でオレを見た。顔にありありと「何言ってんだこいつ」って書いてある。アンタすっげー分かりやすい。ちょっと殴りたいくらい。 「火神っちのご飯は、ずーっとオレだけのものっスから」 「そんなら別に……今だってそうだろ」 「だから、今みたいにずっと作ってよってこと」 オレの言うことが全く理解できない火神は、とりあえず流すことにしたのか分かった、と頷いた。なんでこんなこと言ったかほんとに分かんないのかなあ。すりつぶしたゴマはもう粉々になっている。すり鉢を持って立ち上がって、対面式キッチンの手前まで来た。さしだしたゴマは、多分、オレの気持ち。 この関係にいつか終わりが来ても、アンタのご飯はずっとオレのものでいてよ。当然の顔して食べに来られなくなっても、アンタが料理屋ならいつでも来れる。だから、ね、そうしてよ、火神。
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