学校はにがて。なんだか息苦しい。机は整列していなきゃだし、わたしも、笛がなったら、机みたいに、訳もわからず整列しなきゃいけない。なんて、そんな言い方も、おかしいかな。でもそんなかんじ。
制服は可愛い。友達も話していたら楽しい。テレビの話とか。でも、ちょっと変なことをしたり、変なことを言ってみたり、いや、変じゃないけど、変じゃなくても、それが誰かの、誰か、声が大きいひとたちの、お気に召さないならば、すぐ噂みたいになって、クスクス笑われる。男の子もなんだかニヤニヤして何かを見てる。その目が、手が、声が、きたなく思える。わたしの部屋もきたないけど。

「私も、学校、ちょっと苦手かなあ」

桃井ちゃんは、困ったような顔で、はは、と笑った。力のない声だった。
落ち葉を集めるだけの校舎裏の掃除はすぐ終わって、わたしと桃井ちゃんは日陰にある古びたベンチに座った。
桃井ちゃんもそんな気がしたから、こんな話をしてしまったのかもしれない。教室で見る桃井ちゃんはふとした瞬間物憂げな顔をしていることを覚えていた。桃井ちゃんもわたしも、虐められているわけではないし、友達がいて、笑って話す。それでもわたしは、学校がちょっと苦手。なんとなく学校に来て、なんとなくみんなの顔を見ていると、自分のなかのものが、どんどん、波に攫われるように、何にもなくなっちゃうような感じがして。
桃井ちゃんもわたしも、それから口を閉ざしたまま揺れる木の葉の影を見つめていた。たまに吹く初夏の風が気持ちよかった。黙っていても、心地よかった。桃井ちゃんもそう思っていたら、すごく嬉しい、と思った。

「桃井ちゃん、今日、一緒に帰っていい?」



部活があるから遅くなっちゃうよ、と言われたので、図書室で宿題やってるからいいよ、と言うと、じゃあ迎えに行くね、と桃井ちゃんは微笑んだ。
そっか、桃井ちゃんはあの厳しいバスケ部のマネージャーなんだっけ。それなら多分、結構遅くなるだろうと思っていたけど、本当にそうだった。宿題もすっかり終わってしまって、適当に本を読んでいた。窓の外を見ると、もう真っ暗だった。携帯で時間を確認すると7時だった。もうすぐどの部活も終わらなきゃいけない時間だ。迎えに来てくれると言っていたけど、本を読むのにも飽きてしまったから、こちらから出向こうと思い、荷物を纏めた。

体育館に向かうにつれて、バスケットボールが床に打ち付ける音や、シューズの擦れる音が大きくなってきた。男の子達の、ふざけあうような、楽しそうな声がしている。部活としては終わっているような雰囲気だった。
開け放しているドアから中の様子をそっと覗くと、青い髪の男の子と、黄色い髪の男の子が、楽しそうに一対一でバスケをしていた。黄瀬くん、バスケ部に入ったって本当だったんだ。青い髪の子は、確か、青峰くん。
そのコートから視線を外すと、ちょっと離れて、先輩と並んで二人を見ている桃井ちゃんを見つけた。
桃井ちゃん、と声をかけようかと思った、その時、桃井ちゃんが青峰くんに声をかけた。

「青峰くん、きーちゃん、そろそろ先生きちゃうから終わり!」
「あー、そうだな、つーか外真っ暗じゃん」
「えー!あともう少し!もう一回!」

駄々をこねる黄瀬くんなんて、初めて見た。あんなところあるんだ、あ、先輩に怒られてる。

あ。
桃井ちゃんは、とても愛おしそうな目で三人を見つめ、笑った。
黄色い体育館の光に包まれる四人の笑い声が、ふわふわと体育館のなかに響いていた。わたしはその様子から目をそらして、足元を見た。光に照らされた名前の書いてある上靴の、かかとから向こうは、真っ暗な夜だった。
なんだ、桃井ちゃん。笑えてるじゃん、楽しそうじゃん、すごく。なんかもう、最高、って顔してる。ねえ。

だめだ、と思った。
わたしは気付かれないようにそっとドアから離れて、踵を返した。そして靴箱へ続く真っ暗な道を少し早足で歩いた。心なしか心臓がどくどくと鳴っていて、どうしても、早足になってしまった。いやだ、逃げているみたいだ。悪いことなんてしてないのに。むしろ、悪いのは。
そこまで考えて、立ち止まった。違う。悪いとかじゃない。
ただ、わたしはここにいちゃいけない。それだけなんだ。
わたしはそのまま早足で校門を出て、消えかけている電灯の続く道を急いだ。真っ暗な道では、誰とすれ違っても何もわからなかった。









140624
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