……このまま船を去ろう。 さっきまで腕がないと大変だと慌てていたのに、今では腕なんてどうでもいいと思っている自分に苦笑した。 船長に「嫌いだ」と告げられただけ。 それだけのことで、生きるためのビジョンが明確に浮かばなくなっている。 しかし悲しくはなかった。 むしろ気分は晴れやかですらある。 ひんやりした心臓もなにも考えられない頭も、がらんどうの心だってそう悪くない。 船長もおれの顔なんか見たくないだろうし、右腕はいらなかったら捨ててくれと誰かに言伝を頼めばいい。 痛みを感じるようなら切断面より上を切り離せばいいだけの話だ。 確かこの島をとりまく海流は一月に一度真逆に変わるんだとか。 海流の変更時間は明日の明け方だったはずだから、今船を出せば万が一にも追われる心配はなくなる。 善は急げ。 適当に荷物をまとめて小さい船を拝借して、夜のうちに島を離れるんだ。 遭難も難破も怖くない。 怖いことはもう終わった。 もうおれには、なにもない。 |