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「ソルベ、ジェラート」
「なんかわかったのか?」

現場処理に勤しんでいた二人に声をかけると期待に満ちた様子で死体を投げ捨てて近寄ってきた。
死体の扱いについてどうこう言うつもりはないが頭蓋骨がコンクリートの床にぶつかる音が倉庫の高い天井で反響してうるさい。
そして期待を裏切るようで悪いが、これから話すのはどうしようもない事実だ。
嘘をつくわけにもいかないだろうとゆっくり口を開く。

「こいつ――英語が下手すぎてまったく聴き取れん」
「はぁああ!?」
「言っておくが俺の聞き取り能力に問題があるわけじゃあないぞ」

なんだよそれ、とこちらを見やる二人に先手で釘をさす。
仕事関係で海外に滞在することも多いためそれなりの英語は身につけているつもりだ。
現に男はこちらの問いかけに反応した。
反応はした、が。

「そんなに下手なのか」
「ああ」

日本人は読み書きや聴き取りに比べて喋るのが極端に苦手だと聞いたことがある。
引っ込み思案な国民性だから、発音の練習すら恥ずかしがる傾向があるのだと。
だがしかし、それにしても酷い。
文法もイントネーションも無茶苦茶、これなら幼児相手のほうがまだ会話が成り立ついうものだ。

「my nameと言っていたから英語はわかるようだが」
「マイ?」
「my name……mi chiamoのことだ。名前は『レオ』らしい」

『レオ』に反応してこちらを向いた男にソルベが軽く手を振った。
挨拶だったのか制止する動作だったのかはわからないがこの短時間で随分と馴染んだ仲になったものである。

「でも本名かどうかも怪しい名前がわかったところでなぁ」
「そうだな。あとわかったことといえば日本人だということと、メンバー全員の名前、スタンドを知っていることくらいだ」

ぼやくジェラートに報告を続けると一瞬で二人の雰囲気が変わった。
静寂に包まれた倉庫内が張り詰めた空気で満たされる。
先ほどまでとは全く違う裏の世界で生きる者の空気。
当事者のくせに一人キョトリとした様子で様子を伺う男だけが別の世界にいるようだった。

「全員の、スタンドだとォ?」
「なぜ知っているのか、どこまで知っているのかは不明。名前を羅列しただけだったからな……ただ、これでますます逃がすわけにはいかなくなった」

殺しを生業とする以上能力の漏洩は死活問題である。
しかしこの攻撃できず捕まえられず意思の疎通が一方通行な男に何ができるというのか。
暴力という脅しが使えない以上金を握らせても安心などできるはずもないし、なによりこんな怪しい男が大金を持っていて警察にでも捕まったら一大事だ。

「どうする」
「……一週間だ。スタンドの分析と身元の割り出しを急げ」

一週間かけてどうにも出来なかったら、なんて、考えたくもない。
決して広いとはいえないアパートの自室がやけに恋しかった。