「チョコちゃんチョコちゃん」 「どうした、どこか痛むのか?」 甘い名前を更に甘ったるく呼ぶ男に優しく取り繕った声で近づく。 男はチョコラータの患者だ。 余命幾許もない、法律で定められたギリギリの量のモルヒネで痛みを抑えて生きながらえている難病の患者。 面倒なのでそういうことにしているが、現実にはチョコラータの処方により男に与えられたモルヒネは法で決められた量などとっくに通り越している。 完全なシャブ漬になってようやく命をつなぎとめている哀れな男は今日も今日とて紙のような顔色で引き攣った笑みを浮かべチョコラータにむけて手を伸ばした。 「チョコちゃん、俺もう死んじゃうよ?」 「死なないさ。なにせこのおれがついてるんだ」 「チョコちゃんの腕がすごいのは認めるけど、俺がポンコツだからなぁ」 ふふ、と喉の奥で笑う男は姿勢をたもつのがしんどくなったのか、くたりと重力に任せて腕をおろした。 いつも、チョコラータが触れる前にそうするのがわざとなのか単純に体力がないからなのかはわからない。 ただ、どちらにしろ不愉快なのは確かである。 「俺のこと解剖しねぇの?モルヒネ効いてるから、いまこのまま腹開いたってしばらくは生きたまま苦しむよ?」 「そんな酷いことするわけあるか」 「うっそだぁ」 そう、嘘だ。 おれは人が恐怖し痛みに震え絶望する様を生き甲斐にする性根の腐った人間だ。 この男にだって、最後の最期には、そうするつもりで、いる。 「チョコちゃん、そんな顔しないで。チョコちゃんが嫌なら今は我慢するよ。でもお願いだから、俺が死ぬ前に、俺をその手で殺してね」 「……ああ、わかったよ」 わかったから、黙って生かされてろこの死にぞこないめ。 |