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俺に敵はいなかった。
向かってくる奴は人間だろうとポケモンだろうと三秒で眠らせることができる。
俺に従わせることも仲間同士で争わせることも簡単。
みんな俺より格下の生き物で、誰も俺に逆らえる奴なんていないはずだった。

なのに、それが、よりによって、こんな奴!

目の前でよだれを垂らしながら能天気に眠る男と微動だにせず抱き枕になっているピンクの物体に俺は思わず地団太を踏みたくなった。



俺達スリーパーが人間を連れ去るのに大した意味と言うものは存在しない。
ただ催眠術をかけて一日二日程度拘束して適当なところで放す。
連れ去られたら最後戻ってこなかったなんて話も聞いたことはあるが、どうせ解放したあとそのまま遠い土地に居ついたとか人攫いにあったとかそんなもんだろう。
とにかく連れ去ることに目的なんてない。
ガキを狙うのだってあくまで狙いやすいからというそれだけだ。
それをこの男、よりによってロリだのなんだの言いくさりやがってあの年のガキを嫁扱いする自分の方がよっぽど変態じゃねぇか!

男の妨害で獲物に逃げられ、ならばお前を代用として遥か遠い山の奥にでも放置してやると催眠術をかけようとしたところで俺は違和感に気付いた。
催眠術がかからない。
正確には振り子から出ている波動が男の出す波動に打ち消されてしまっている。
俺と同じエスパータイプを使役する人間にはそういった特技を持った者がいるとは聞いたことがあるがまさかこの男。
まずいと目を見開いた瞬間男が唇を上に持ち上げてニヤリと笑った。

「残念だったなぁ。俺にエスパー技はきかないんだよ」

この場面だけを見た奴がいたなら例外なく誰もがこう感じたことだろう。
『こいつは悪者だ』と。
結果容赦なく殴る蹴るの暴力を受けたがそこは所詮人間とポケモン、
少しヒリヒリする程度のダメージしか受けなかった俺に対して逆に男の拳のほうが痛んでいるようだ。
ザマァ。
とはいえ最強だと信じて疑わなかった俺の技が人間如きに破られたことは事実で、俺は逃がしてなるものかと男の後を追った。
同じ波動をぶつけ合って無効化されたということはこの男の力は俺と同等か、上回っている。
胸糞悪いがその一点のみは認めよう。
こいつは俺の乗り越えるべき壁だ。

その乗り越えるべき壁が、他のポケモンに対してビクビクへこへこしていたらどうか。
ムカつくに決まってる。

男に対してでかい態度のプクリンに苛立ち、そんなプクリンに対し下手に出続ける男に失望し、早々に見切りをつけて出ていってやろうと思ったらモンスターボールで捕獲された。
酷いふいうちだ。
捕まったとはいえ適当に暴れれば男の方から捨てるだろうと攻撃を仕掛けてみても無効化。
眠っていてこんな芸当ができるのになぜあんなポケモンの機嫌を窺うような真似をしているのだろう。

納得のいかない気持ちを抱えていると突然後ろから冷たい視線を感じた。
バッと振り返るとそこには例のプクリンの姿。
プリン種にあるまじき無表情ではあるがその水色の瞳から読み取れるのは限りない嫉妬と敵意であり到底友好的とはいえないようだ。
いくら気に食わないとはいえエスパー技が無効化される空間でバトルすれば分が悪すぎる。
見えない圧力に押されるように足が勝手に半歩後ろに下がった。

どのくらいの間対峙していただろうか。
張り詰めた空間の中、唐突にプクリンが動いた。
動いて、俺を押しのけて、男の布団にもぐりこんだ。
そして男に抱きしめられたプクリンは、俺に向かって憎ったらしい勝利の笑み。
な ん と い う 屈 辱 ! !




ここで冒頭に戻る。
オーケーわかったそういう勝負がしたいなら受けて立ってやるスリーパーの毛並みナメんなよコラ。
あまり大きいとはいえないベッドに無理やり入り込んでプクリンを睨みつけると向こうもやや目つきを鋭くさせて対抗してきた。
男が気持ち良さそうに眠っているとあって手荒な手段はとれないらしい。
一切視線をそらさず威圧してくるプクリンと俺の間にバチバチと火花が飛ぶ。
負けてたまるか。
意地とプライドをかけた勝負は、そのまま朝まで続いた。



「え、なにこれなんで増えてんのこれ、え、お前ロリの上にそっち系なの?いやもしかして♀……いやちがう♂だこれなにこの状況嫌だ俺もう仕事休む」

目覚めると同時に布団の中に俺がいることに気付きパニックに陥った男が思いっきりプクリンにはたかれていた。
ザマァ。