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昔から祭りのあとというのが苦手だった。
リーグ戦や誕生日、なにかの打ち上げで飲んだときなんかもそうだ。
みんなで騒いで興奮して楽しみ尽くして、その瞬間は最高の気分でいられるのに終わったあと一人で日常に戻るのがたまらなく寂しくなる。
といっても、愛すべきポケモンたちやSNSでの繋がりもあるため騒いでいた仲間たちと別れて一人になったところで寂しさを紛らわせる手段にはことかかない。
あくまで苦手というだけだ。
少なくともそのために誰かに迷惑をかけたことは一度もない。
いや、ないと思っていた、というべきか。
そろそろ起きろと目覚めを促す落ち着いた声に寝癖のついた髪を梳く手、昨夜のクリスマスパーティーで荒れていたはずなのにきちんと片付けられた部屋、少し手の込んだ朝食が並んだテーブル。
いつもと違う朝に混乱しわけがわからないまま顔を洗い席に着くとこの状況を作り出したのであろうジョウゴが呆然としているキバナを見てぷっと吹き出した。

「お前昨日……っていうよりいつもか。家で飲むときべろんべろんに酔っ払ってるから俺らが帰る頃のことほとんど憶えてないだろう」

指摘されてこくりと頷く。
昨日は友人数人を家に呼びどんちゃん騒ぎをしていたのだが途中眠たくなったあたりからの記憶があやふやだ。
楽しい気持ちのまま眠ってしまいたいという気持ちからわざと許容量を超えたアルコールを入れているので当然と言えば当然だろう。
外で飲むとそんなふうに酔い潰れることもできなければ一人で暗く寒い部屋に帰る羽目になる。
楽しい時間との落差が嫌で、キバナはこの数年友人と騒ぎたいときには自宅に招くようにしていた。
そうすると今度は朝起きたときゴミになったパーティーのあれこれを見て寂しさを感じるはめになるのだが夜眠る前にそれを感じるよりはマシだった。

「毎年な、縋りつかれてたんだよ」

なんでもないように言われた一言に愕然とした。
記念に写真を撮ったあと手持ち無沙汰になり大人しく口に運んでいたジョウゴ手製のサンドイッチの具がぽろりと皿の上に落ちる。

「酔うとなんでだか俺にだけ縋りついていやだいやださみしい帰らないでって駄々こねるんだよ、お前。まあ悪酔いしてるだけだろうと思って毎年放置して帰ってたんだけど」

毎年。
一回やらかした時点で言ってくれよ。
なんで言ってくれなかったんだ。
というか、よりによってジョウゴに?
よりによって、なんで、いやなんでかなんてわかりきってるけど。
目を見開いたまま固まっているキバナに「今年は気が向いたから残ってみた」と笑うジョウゴはその気まぐれの恐ろしさをわかっているのだろうか。
キバナは間違いなく、これから毎年ジョウゴの気まぐれを期待することになる。
そして期待が空振りに終わった朝の寂しさはこれまでの比ではないものになるだろう。

「ひどい男だ……」
「キバナには言われたくないなぁ」

朝食の準備に片付けまでしてもらったのだから感謝すべきだとわかっていても恨みがましく見つめてしまうキバナに俺がこれまでどれだけ振り回されてたと思ってるんだと肩をすくめるジョウゴ。
そりゃあ酔っ払いに付き合わせて申し訳なかったとは思うが、指摘された通り記憶になかったのだ。
言ってくれなければ止めようがないではないか。

「オレさまだって別にやりたくてやったわけじゃ、」
「そんなぶすっとすんなって。昨日の夜言ったこと思い出して素面でもう一回言ってくれれば来年も朝飯作って待っててやるから」
「えっ」

一瞬心が弾んだが酔って口にした一言など思い出せるわけがない。
こんなことならあんなに飲むんじゃなかったと後悔してもそれこそ後の祭りである。
絶対無理だと肩を落とし、唇をとがらせながらジョウゴが作ってくれた朝食の写真をポケスタにアップしたら昨日クリスマスパーティーにきていた他の友人たちから次々におめでとうとメッセージがとどいた。
なにもおめでたくないと悪態をつくキバナをジョウゴが指差して笑った理由はまだわかっていない。