なんというか、やけに酒に付き合わされるな、とは思っていた。 俺がアルコールに弱い性質なのはネズだって重々承知のはずなのになにかあって機嫌が悪くなるたびに「飲みますよ」と有無を言わさず首根っこを掴まれ引きずられるのだ。 最近では店で酔いつぶれたあとタクシーを呼んで運ぶのが面倒だからと酒を持参のうえで家にあがり込まれることも多い。 いつも先に眠ってしまうためネズがどの程度飲めるクチなのかは知らないがものの一杯で酔いが回り二杯空ければ正体を無くすような人間と飲むくらいならもっとましな相手はいくらでもいるだろうにと首を傾げ、けれど他の誰でもなく俺だけを誘ってくれるのがうれしくて、その理由を尋ねたらこのちょっとした特別扱いが終ってしまう気がしてあえて何も聞かずにいた。 いままでもこれからも知るつもりのなかった理由を知ってしまったのは俺のスマホロトムがいたずらをして潰れた後の様子を勝手に録画していたせいだった。 記憶にない動画を発見し不思議に思って再生するとそこに映っていたのは実家のチョロネコに対するのと同じ声と手つきでネズを抱き込みかわいいかわいいいい子だねかわいいねと撫でくりまわす俺の姿と素直に撫でくりまわされているネズの姿。 『はー……ジョウゴの手、きもちよかぁ……』 気の抜けた、実に幸せそうな顔で無防備に体を預けているのを見るにこれが初めてではないーーというか俺を飲みに誘うのはたぶん、いや絶対これが目的なのだろう。 動画自体は時間にすれば短いものだったがそう確信するには十分な内容だった。 ネズにとってのストレス解消方法は酒を飲むことではなく酒を飲んだ俺にちやほや甘やかされることだったというわけだ。 チラと隣を確認するとうっかり動画再生中に画面を覗き込んでしまったせいで羞恥プレイに身を投じるはめになったネズが顔を赤くしたり青くしたりして口をはくはく動かしていた。 さっきまですました様子で皮肉げな笑みを浮かべたりしていた男と同一人物とは思えないひどい顔である。 気持ちはわかる。 俺が逆の立場だったら恥ずかしすぎて精神が死んでるところだ。 「ええと……あのな。別にお前のことチョロネコ扱いするのは嫌じゃないからいいんだけど、恥ずかしいからこの酒癖を人に言いふらしたりするのはやめてほしい」 こんな酒癖があると自覚してしまった以上今後は絶対に他のやつとは酒を飲まないと心に誓いつつ誤解を与えてネズを追い詰めてしまわないよう言葉を選んでそう気持ちを伝えると、どうにかこうにか混乱と動揺を抑えたらしいネズはぎこちないながら小さくこくりと頷いた。 とりあえず恥ずか死は回避できたようだ。 よかったよかった。 あとは。 あとは、うん、そうだな。 「……あと、俺ネズのこと好きだから。理性飛んでる状態でこういうことするのはちょっと危ないと思う」 この際だからいっそついでに吐いてしまえと勇気を出して口にした追加情報でせっかく動き出したネズが再びガチリと固まってしまった。 まあそれ以降ネズの顔が青くなることはなかったし酒を飲まされる頻度はむしろ増えたので俺はいたずら好きのロトムに感謝するべきなのだろう。 |