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ジョウゴはマクワのファンクラブに所属する会員の一人だ。
自身をマクワの運命の相手と称し公私を問わず猛烈なアピールをしてくる、熱烈なファンか頭のおかしいストーカーかで判断に迷うラインの厄介かつ迷惑な男。
マクワが本気で嫌だと思うことはしないのと多少強引ではあれ引き際をきちんと弁えていること、そしてなにより男についてあれこれ聞いてくる母への反発心で退会処分は免れているがこれらの要素の内一つでも欠けていれば今頃とっくに警察のお世話になってマクワの目の届く範囲に存在できなくなっていただろう。
そんなジョウゴが観客席にいないとマクワが気づいたのはスタジアムに入場してすぐのことだった。
ファンクラブの特別会員にはキルクスタウンで行われる試合のチケットが配布されているため用意された一角以外にいるとは考えづらいのだがもしかしてなにかあったのだろうか。
以前事故で両足を骨折した翌日に至極当然の顔で試合を見にきていた男がいないなんておかしいとしか思えない。
よほどまずい事態に陥っているのではと想像してそわそわと落ち着かない気持ちになり、嫌な動きをしはじめた心臓を抑えるように胸に手を当てる。

「……え?」

ふと視線をやった対戦者側の関係者席に見慣れた顔を見つけたのはコートに上がった直後のことだった。
ジョウゴだとすぐに気がついたのにそれが本当に本人なのかと疑ってしまったのはマクワの知るジョウゴとあまりに雰囲気が違ったせいだ。
いつも応援のときに着ているレプリカユニフォームではなくピシッとしたスーツを着て、まるで普通の人のような当たり障りのない笑みを浮かべているジョウゴ。

「ーーーー、」

見たことのない別人のような姿にほんの少し動揺はしたけれど、別になんということはない。
ファンクラブの会員の一人が怪我や病気で倒れているのではと心配し、そしてそれは杞憂だった。
心配事のなくなったマクワはいつも通りのパフォーマンスで観客を沸かせポケモンたちへ的確な指示を出し危なげなく勝利を掴んで対戦者と笑顔で握手を交わした。
全部いつも通りにできた。
だから別に、なんということはなかったのだ。




「ごめんごめん、仕事でどうしても向こう側に座らなきゃいけなくなってさ〜。あっでももちろんマクワの応援してたからね大声で!」
「……誰もそんな事情聞いてません。気にしてもいませんし」
「俺が気にするの!愛しのハニーにちょっとでも誤解されたくないの!」
「誰かハニーですか」
「マクワに決まってんでしょ〜。他に誰がいんの」

俺はマクワ以外どうでもいいしマクワのことしか見えてないんだよ運命なんだから当然だよねと扉越しにまくし立てるジョウゴが「だから不安がらずに出ておいでよ」と見当違いなことを言っている。
なにが不安だふざけるな。

「勝ったのにインタビューなしで控え室にこもるからみんな心配してたよ」
「たまたま気分が乗らなかっただけです」
「俺もマクワに想いを伝えるために用意したゴージャスな薔薇の花束を渡せなくて困ってるし」
「知りません」
「いつも通り愛情でびっしりのラブレターもあるよ」
「……知りません」
「せめておひねりだけでもねじ込まさせてほしいなぁ」
「前から言ってますけどそんな制度ありませんからね!やめてください!こら!扉の隙間に札をつめないで!」

いい加減鬱陶しくなってバンと扉を開けるとキラキラと熱っぽい目を輝かせとろけた笑みを浮かべるジョウゴが間髪入れず抱きついてきた。

こんな男に振り回されているなんて、絶対認めてやらない。