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カブにとってエンジンシティジムマネージャーであるジョウゴから言われる『かわいい』はまったくもって未知の評価だった。
別にかわいいと言われ慣れていないわけではない。
面と向かって言われることこそ少ないが、巨大な虫ポケモンのマルヤクデ、奇抜にしか思えないファッション、果ては道端の石ころにすら何かを見出してかわいいかわいいと口にする女性たちの目には比較的低身長で常に全力投球な姿勢のカブが『かわいい』ふうに映るらしく、ネットで検索でもすれば容易にそういった声を見つけることができる。
しかしジョウゴの『かわいい』は慣れたそれらとは明らかに違っていた。
単純に愛らしいというだけではない妙な重みと熱のある言葉を当然のように寄越してくるジョウゴ。
身長が低かろうと男は男、なんならジョウゴよりずっと筋肉質で一まわりは年嵩の自分のどこをどう見てそう思うのか、カブにはさっぱり見当もつかなかった。

***

「実はガラルでは珍しいホウエンの酒が手に入ってね」
「カブさん、だめですよ」
「朝のうちにつまみになるものも作っておいたんだ」
「だめですって。カブさんお酒強くないくせに深酒するんだから。明日は朝一で取材なんですよ?」
「……だめかい?」

きみと一緒に呑むために用意したのにと眉をさげて見つめるとジョウゴがぐっと息を詰め、振り絞るような声で「かわいい、ずるい」と口にした。
この表情に弱いらしいことは前から知っていたが、なにをもってかわいいと感じているのかは相変わらず謎だ。
説明されたところできっと理解できないだろうなと考えながら再度「だめかな」と尋ねるとジョウゴは悔しそうに天を仰いだ。

「わ、……っかりましたよ……!でも時間と量は決めて飲んでくださいよ!あと朝!ちゃんと起きてください!」
「大丈夫大丈夫、年寄りの朝は早いからね」
「そう言って前回は全然電話に出てくれなかったじゃないですか」
「心配ならうちに泊まっていってくれてもかまわないよ?」
「カブさんがかまわなくてもおれがかまいます!!」

そんな簡単にめったなこと言わないでくださいと眉を吊り上げて怒るジョウゴは、ならばどんなふうにすれば『かわいい』という言葉以上のものをくれるのだろう。
手を変え品を変え『かわいい』態度で媚びているのだからそろそろ察してほしいものである。