自炊はできないが外食は苦手、でも美味いものは食いたい。 そしてなにより俺はキバナのことが好きだったので、SNSを通じて俺の食生活のヤバさを知ったらしいキバナが定期的に夕飯を作りに行こうかと提案してくれたときこんな素晴らしいチャンスを逃す手はないと思った。 キバナにとっては不摂生な友人を心配しているだけのことなのだろうが俺にとっては好きな相手を定期的に自宅に招いてその手料理を食べられるとんでもないイベントが発生したのだ。 そして一生分のラッキーをまとめたくらいの提案に一も二もなく飛びついた俺は、毎週末キバナと食事をするのが恒例となった今になってそのことを後悔していた。 だってキバナは俺よりよほど忙しいはずだ。 本来であれば俺が奪ってしまっている時間は自分やポケモンにあてられていたのだろうに、それをこんな、不純な理由で友情を利用している男のために浪費させてしまうだなんて。 冷静になって考えて好いている相手の負担を増やしてしまったことに気づき、回数を重ねるごとに強くなる罪悪感に耐えかねて「大変だろうしもういいよ」と言ってみてもインスタント食品ばかり食べていたのを知られているせいでキバナの中に責任感のようなものが生まれてしまっているのか「ぜんぜん大変じゃないしむしろ週末が楽しみなくらいだぜ」と笑顔で躱されてしまう。 ーーので、これからはちゃんと自分で料理をするという意思をみせるためにいくつかお手軽なレシピ本を買ってみた。 自炊は面倒だが惚れた相手に負担をかけてばかりはいられない。 軽く読んでみたがこれなら洗い物もほとんど出ないしズボラな俺でもなんとか続けられそうだ。 お前が料理してるのを見て自炊に興味が出たとでもいえば違和感も持たれないだろう。 そう思ってむかえた週末、レシピ本を目につく場所に置いてキバナを招き入れるとさっそくそれを見つけたキバナは少し不思議そうに首を傾げた。 「レシピ本を買うなんて珍しいな。これに載ってる料理が食べたいのか?」 「あー、それは自炊はじめようと思って買ったやつ。キバナみたいに料理できたら楽しいだろうなと思って」 さっそく考えていた台詞を口にしてこれでどうだと様子をうかがうと、キバナは「え」と小さく声を漏らし小さく目を見開いて固まってしまった。 いい傾向だなわからないことがあったらオレさまが教えてやるよと好意的に返してくれるものだと思っていたのになんだその反応は。 「……え、なに、オレさまの料理、食べたくなくなった?味付け薄かったか?」 「いやまさか!なんでそうなるんだ!?」 「だって、自炊したらジョウゴ、オレさまの料理」 「食べる食べる、キバナの料理はめちゃくちゃおいしいから!もうほんと毎日でも食いたいぐらい!」 「そ、そうか?その……ジョウゴが嫌じゃないなら別に、毎日でも作りにくるけど」 ショックを受けた様子で不安げに何が悪かったか聞いてくるキバナに慌ててフォローを入れるとまた一瞬固まって、今度は恥ずかしそうにとんでもない提案をぶちこまれ顔面にメガトンパンチを喰らったような気分になる。 二メートルちかい高身長でなんでそんな完璧な上目遣い会得してるんだよずるいだろ。 「じゃあ……いつも作ってもらってばっかだと悪いし……交代で作るってことで……」 「!」 この流れで再度断ったらまたさっきみたいに悲しい顔をさせてしまうんじゃないかと思うとそんなことしなくていいとは言い辛く、苦肉の策でそう告げるとキバナはパッと花が咲いたように嬉しそうな笑みを浮かべた。 「ジョウゴの料理か!楽しみだな!」 「はは……期待してハードルあげないでくれよ」 「あっ、毎日通うならたまに泊まらせてもらってもいいか?荷物は増やさないようにするからさ」 「いいよいいよ、他に部屋に上げるやつなんかいないしパジャマでもなんでも置いてけ置いてけ」 やけになってオーケーするたびにキバナのテンションがあがっていくのを見て俺の気遣いはなんだったんだと内心で肩を落とす。 もういっそ結婚してくれないかな。 くそぅ。 |