カブさんと初めて一緒の布団で眠ったのはキルクスタウンで十年に一度の大雪が降るというニュースを見た日の夜だった。 灯りを消して暫くしてから「寒くて眠れないからよかったらいれてもらえないかな」と言っておれの腕の中におさまったカブさんの体は寒いと言うわりにはぽかぽかしていて、炎タイプのポケモントレーナーは体温が高くなるものなのかと考えていた覚えがある。 今にして思えばとんでもない馬鹿だ。 適度に温かい炎タイプのポケモンが手持ちにいるのにわざわざ恋人の布団に入ってくるなどという見え見えの口実を理解せず、それどころか眠りを邪魔してしまわないようにと必死に手を出すのを我慢していたのだから馬鹿としか言いようがない。 おかげで自分ではそういう気分にならないのかもと誤解したカブさんにいらぬ不安を与えてしまった。 翌朝「あったかかったけどむらむらして余計に眠れませんでした」と情けない告白をしたおかげでことなきを得たが誤解がとけていなかったらと思うとゾッとする。 「なにを笑っているんだい?」 「初めて一緒に寝た時のこと思い出してたんです。もう口実なんかなくてもカブさんと寝るのが普通になったなぁって」 あれから季節はいくつも過ぎて、いまは何もせずに寝転がっているだけで汗ばむほどの真夏の夜。 あの寒い夜とは正反対だがもしいま理由をつけて布団に入ってくるとしたらカブさんはなんと言ってくれるのだろう。 「ねえカブさん、今日は一旦別々に寝ましょうか」 「えっ……今日、そんなに熱いかな?」 「いや、いっしょに寝たくないわけじゃなくて一旦、ね?」 ショックを受けたような戸惑った様子のカブさんに笑顔でそう告げるとおれがやりたがっていることの趣旨を理解してくれたらしく呆れ顔で「面白いことは言えないよ」と念押しされた。 面白さを求めてるわけじゃないんだけど、カブさん案外おちゃめだからな。 ちょっと楽しみかもしれない。 ーーそうしてわくわくしながら灯りを消して数秒後。 相変わらず甲斐不足で馬鹿なおれの耳元に「さみしいから今夜は一晩中抱いていてほしいな」という真夏の夜より熱っぽい、甘えるように掠れた恋人の声が吹き込まれた。 |