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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




雨の日が好きなやつってなんなんだろうと昔から思っていた。
身体はだるくなるし服は張り付くし洗濯物は乾かないし外を歩けば靴が濡れる。
いいことなんて水ポケモンが喜ぶぐらいじゃないか。

「ダンデってさぁ、なんで雨が降ってると朝からそんなに嬉しそうなんだ?」
「へ?」

早々に一つ目を平らげ二つ目のドーナツを頬張りながら紅茶を飲んでいたダンデが俺の質問を聞いて勢いよく後ろを振り返り「いてっ!」と声を上げた。
くしに引っかかっていた髪が数本まとめて抜けてしまったらしく涙目になっている。
からまりまくった髪を解いてやっている最中に動くんじゃないといつも言っているのに。

「ほら、髪だって雨さえ降らなきゃここまで酷いことにならないだろう?うねって絡まって爆発してまとまらないって泣きつくいてくるくせになんでか雨の日の方が機嫌がいいから気になってさ」

俺なら憂鬱で憂鬱でたまらないけどと言いつつ髪が抜けてしまったであろうあたりの頭皮を指の腹で優しめにぐりぐりしてやっていると、雨の日に機嫌がいいという自覚がなかったのか、ダンデは少し目を見開いて考えこむ様子をみせた。
結構あからさまなのに自分で気付いていなかったとは驚きだ。

「オレは……雨だと機嫌がいいのか?」
「そう見えるな。はい、セットするから前向いて」

元の癖もあるからどうせすぐ跳ねて無駄になるのだが、それでも一応ボリュームを抑えるためにアイロンをあてていく。
そこまでするならいっそ美容室でストレートにしてもらったほうが手間がかからなくていいのだろうとわかってはいるものの、そうなると俺の手の中でダンデの髪がさらさらになっていくこともなくなるのだと思うと提案するのは憚られた。
一束一束まっすぐに伸ばし、引っかかりがないか指を通して確認しているとダンデが「そうか」と呟いた。
そわそわしたような少し浮ついた声。

「オレは雨の日が好きなんだな」
「理由、わかったのか?」
「ん、ああ、まあな」

なにかに納得したが教えてくれるつもりはないらしい。
真っ直ぐ前を向いているのでどんな顔をしているのかもわからない。
俺はダンデの髪を整えるようになってからその一点においてのみ雨の日も悪くないと思えるようになったのだが、そうでないやつは本当に一体どうして雨を好きになれているのだろう。
永遠の謎だ。