子供の夢なんてだいたいみんなお決まりで、レンジャー、アイドル、ジョーイさん、お花屋さん、おまわりさん、ポケモン博士にポケモンマスター、このあたりでだいたい出尽くすものだ。 かく言うおれも幼稚園の先生に将来の夢を聞かれたときにはポケモンマスターと答えていた。 ポケモンの相性も理解せずたいあたりばかり指示するアホの分際で身の程知らずにもほどがある。 でもまあきっと子供ながらに自覚しているところもあったのだ。 夢は夢。 本気でなれるなんて思っちゃいないけど言うだけならタダだと、無意識のうちに。 「でもお前は昔から頭よくてバトルも強かったからさ、『将来の夢はポケモンマスター』って言ったらきっと実現させちまうだろうなって思ってたんだよ」 「それがあれだもんなぁ」と昔を懐かしんで目を細めると隣でパーカーのフードで顔を隠した上で頭を抱えてもだえるキバナから「その話もうやめてぇ……」と弱々しい声があがった。 おれにとってはそうではないが、キバナにとっては思い出したくない黒歴史らしい。 「おれさま、ジョウゴくんのおよめさんになる!って」 「ひぇっ」 「可愛かったよなぁ。周りに男だからなれないだろってからかわれてもジョウゴくんがいいよっていってくれたらなれるもん!って全然退かなくてさぁ」 「あああああああ……」 ほんとやめてもうむりごめんなさいと羞恥で死にそうになっているキバナに笑いながら小さな箱を握らせる。 中に入っているのはその長い指にぴったり嵌るサイズの小さな輪っかだ。 途中で夢を諦めようとしたキバナと縋り付きなだめすかして何がなんでも諦めさせなかったおれのひとつの集大成である。 「あのときキバナの夢を聞いた瞬間からおれの夢は『キバナにいいよって返事すること』に変わったんだぜ」 これでも自分なりに身の程知らずにならないよう努力してきたんだから叶えさせてくれよと箱を握らせた手にキスするとフードの中からまた「あああああ……」と声が聞こえてきた。 そっと重ねた手が馬鹿みたいに熱い。 このぶんだと隠れている部分の浅黒い肌はかわいそうなぐらい真っ赤になっているのだろう。 二人で夢を叶えるのはキバナが落ち着くまで、もう少し先伸ばしになりそうだ。 |