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肉付きのいいグラマラスな人が好き。
理想の女性はメロンさん。
まあメロンさんはマクワのお母さんだしうちの母親と同年代って考えると罪悪感がすごいから恋愛云々とは別枠なんだけど、例えばマクワが女だったら惚れてたかも。
へらへら笑いながらそう口にすると同じテーブルで飯を食っていたマクワが心底げんなりした顔でじとりとこちらを睨みつけてきた。
おれの好きな相手を知っているマクワからすれば当然の反応だ。
ちらりと見るのはマクワの隣で肉の塊が乗った大盛りカレーを黙々とかきこんでいる痩身の男、ネズ。
幼なじみで兄弟のように育ったジムリーダーのマクワを通じて知り合い、それなりに気が合って友人と呼べる程になったネズだがここしばらくはずっとギクシャクしてしまっていて、おれはそれが自分の気持ちに気付かれたからではないかと踏んでいた。
そう、それこそ子供の頃から肉感的な女性に惹かれていたはずなのに人生とはどうにもままならないもので、大人になったおれが本気で惚れたのはよりにもよって好みとは正反対であるネズだったのである。
自覚して一番に思ったのはバレたらまずいということ。
あくタイプ使いなのにそういう方面の遊びは好まないらしい真面目なネズにこの気持ちを知られれば間違いなく友人のままではいられなくなるだろう。
幸い好みのタイプについては日常的に公言していたし根っからの女好きだと思われていればちょっとやそっとじゃバレないに違いないと高をくくっていたのだがマクワには即様子がおかしいと勘づかれて白状するまで真摯な尋問をうけたので当事者のネズがなにかを感じとっていても不思議ではない。
だから、釘を刺すことにした。
本人の前で好みの女性について言及しておけば思うところがあったとしても気のせいということにしてくれるだろう。
マクワは気付かれたならいっそこの機会に告白すればいいと簡単にいうけれどおれは進展なんて望んでいないのだ。
ぎくしゃくする前みたいにくだらない話をして二人で飯を食って、笑い合えればそれでいい。
真面目で気分屋で気性が荒くてネガティブで世話焼きだけど甘えたがりな気難しい男の懐に潜り込めた奇跡を、叶いもしない恋なんかで手放したくはなかった。

「なんだよそんな顔して。もっと頼んでもいいんだぞ?奢ってやるから」
「僕より稼げるようになってから出直してくださいね」
「あっはっは!遠慮するなよ〜」
「してません」

どうしようが勝手ですけど巻き込むのはやめてくださいと目で訴えてくるマクワに気付かないふりでへらへらしたままデザートメニューを広げていると突然ガツンと強く硬質な音がした。
驚いて顔を上げると音の出所にはほとんどなくなったルーに容赦なくスプーンを突き立てているネズの姿。
皿とスプーンがぶつかる音だったのだろうがどれだけ勢いよくぶつけたのか。

「……おれだって食べる量は負けてないんですがね」
「え、ネズ?」
「ハードゲイナーって体質らしくて、食べても食べても肉がつかねぇんですよね。カロリーも計算して食ってるのに三ヶ月かけて増えたのは100グラムぽっちですよ。100グラムなんて、汗かいたら終わりじゃねぇですか」

「まあおれは女じゃないから体型なんかそもそも関係ないけどね」と苛立たしげに顔を歪め大盛りだったカレーの最後の一口を雑に咀嚼して飲み込んだネズがテーブルに金を置いて「ごちそうさま」と席を立つ。
店の扉をくぐる背中をぽかんと見送ってマクワに視線をやると最低なものを見るような目でさっさと行けと言わんばかりに手で追い払われた。
当て馬なんてごめんですよって待てこれほんとにそういうことか。