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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




友人だったネズに意を決して告白した。
九割九分とりつく島もなく玉砕するだろうと思っていたが、もし万が一にも可能性があるかもしれないと感じられる返事だったら恥も外聞も捨てて一縷の希望に縋りついてやろうという覚悟で臨んだため困惑した様子のネズの「そういう目で見たことがなかったので」という言葉に即「じゃあこれからそういう目で見て考えてくれ」と返して強引に先につなげることができたものの問題はそれから。
なんというか、行き詰った感が半端ない。
ネズの適応力がすごすぎる。
告白した後しばらくの間はちゃんとぎくしゃくしていたのだ。
ぎくしゃくするといえばと聞こえは悪いがそれはイコール友人とは違う存在として意識してくれたということである。
安定したポジションに落ち着いてしまっていたおれからすれば歓迎すべき変化だ。
だというのに少なくとも友人の枠を破ることはできたと喜んでいたのも束の間、ネズの態度はものの一週間で元通りになった。
告白されたのを忘れたのかと思うほど自然に接してくるネズに呆気にとられ、いやここで引いてたまるかと今度はスキンシップをはかることにしたがそれも効果があったのは三日ほど。
初めは手を取ったり髪に触ったりでどぎまぎしてくれていたのがひと月たった今では突然抱きしめても何の反応もしやしない。
いっそキスでもしてやろうかとも思ったがそれすら慣れられてしまう可能性があることを考えると建設的とは言い難い案だ。
もっとなにか、恋をしてもらえるような行動をとらなければ。

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「それってさぁ、相手の子、安心しちゃってるんじゃない?」
「安心?」
「んー、みくびられてるっていうのかなぁ。こいつは自分のこと好きだから適当に扱っても離れていかないって思われてるんだよ」

ネズのライブで盛り上がったあと、数回顔を合わせていた女の子にこのあと一緒に飲みにいかないかと誘われ、ネズの名前は伏せて好きな人に会いにいかなきゃいけないからと断ったところ当然のような流れで恋愛相談に発展し、まあおれが毎回勝手に控え室に押しかけているだけで約束しているわけではないから少しくらい遅くなっても問題ないだろうとしばらく話をしていたらそんなことを言われて眼から鱗の気分だった。
たまには距離とるのも大事、ちょうどいいからやっぱり今日は会うのをやめて一緒に飲もうと続ける彼女が言いたいのは『押してだめなら引いてみろ』というやつなのだろう。
試してみる価値はあると思うが距離をとったらこれ幸いとなかったことにされてしまうかもしれないため慎重に考えたいところだ。
一考の価値あり。
しかし少なくとも今この子と飲みにいく気にはならない。
というわけで相談に乗ってくれた礼と立ち話に付き合わせてしまった詫びを入れてそろそろネズのところへ向かおう。
そう思って周囲に目をやった瞬間「あ」の形で口が固まった。
ほんの数メートルというところにこちらを見ている人影があった。
ネズだ。
いつもライブが終わったら着替えを済ませて一直線に帰宅するはずのネズが、なぜか怒りの形相でおれを睨みつけている。

「え、なん……ちょっ、ネズ !?」

気づかれたことに気づいたネズがつかつかと歩いてきて躊躇いなくおれの手を取り、唖然とした顔の女の子に「返してもらいますよ」と吐き捨ててすごい力で引きずりだした。
こいつ細っこいくせに握力がえげつない。
マイクパフォーマンスやらで握力が鍛えられるって話を聞いたことがあるがまさかこれほどとは。
やる気はないけど、これはたぶん全力で振り解こうとしても微動だにしないだろう。
めちゃくちゃ痛いし普通にこわい。

「なに、ネズ、どうした?つーかなんであんなところに」
「……それはこっちのセリフでしょう」

急すぎてなにがなにやら混乱したまま人気のないところまでついていくとまたも突然立ち止まったネズが心底イライラした様子で「お前、バカなんですかね」と罵倒してきた。
声こそ荒げていないが相当怒っているようだ。

「気を引きたいから女と飲みにいくなんてナンセンスにもほどがあるでしょう」
「いや行かねぇよ!?断ろうとしてたとこだったし!」
「は?この場は断るけど言われたことについては考慮するって顔してただろうが」
「おれがネズのこと好きだったのには全然気づかなかったくせになんで急にエスパータイプみたいになんの……こわ……」

責めるつもりはまったくなかったのだがそう聞こえてしまったのか、ネズはハッとしたように目を見開いたあと「それは、友人だと思ってたもので」と苦い顔で俯いた。
一瞬微妙な空気が流れたが自由に動かせる手でわしゃわしゃと白黒の髪を掻き回したら張り詰めた糸が緩んだように深く息を吐いたのが聞こえて握られたままだったほうの手から力が抜けた。
感覚がない。
笑う。

「ごめん。ネズがなに考えてるかわからなくて焦ってた」
「なにって……おれは、お前に頼まれたから、お前のこと考えてやっているんですよ。決まってるでしょう」

焦らなくたってうやむやにする気はないしちゃんと答えは出しますよと少し拗ねたように唇を尖らせるネズは可愛いがしかしそれはそれとして気になることがあった。
おれはエスパータイプではないので人の心が読めるわけではないけれど、かといってあからさまな好意をスルーするほど鈍感なわけでもない。
今回の件におけるあからさまな好意というのはつまり、いつもライブ終わりにすぐ控え室へ来るはずのおれがこなかったからとわざわざ探しにきてくれたり女の子と二人でいるのを見て怒ったりという行動だ。
おれの痛々しい勘違いでなければ本当にあからさまといえるだろう。

「……あのさ」
「なんですか」
「ちょっと思ったんだけど、お前もう答え出てないか?考える必要なくない?」
「まだです!友人だとしか思ってなかった男に告白されてごらんなさい!色々と考えたくもなりますよ!」

カッと目を見開いて否定するネズだがその言葉からネガティブな感情は窺えない。
おれに恋愛感情を抱けるか考えるというより自分の気持ちの整理をつける時間がほしいという感じだ。
それなら待とう。
下手な小細工はなしで、焦らず、真剣に考えてくれているネズを信じて。

「…………まあ、今のところスキンシップは嫌ではないんで、続けてみたらいいんじゃねぇですか」

でも早いところ返事をくれないと忍耐力がもたないかもしれないからなるべく急いでくれ、頼む。