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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




ダンデの髪はいい匂いがする。
あまいミツみたいな匂いだ。
後ろから抱きしめている最中にそう言ったら「髪が長いからシャンプーの香料がつく量も多いんだろうな」となんでもないことのように返されたがそもそも女性向けのシャンプーを使っていなければこんな甘い香りにはならないだろう。
実家で使っていたのと同じシャンプーを買い続けているというのだからさすがダンデという感じだ。
ポケモンバトルとキャップ以外に対するこだわりがまったくない。
おそらくお母さんの髪も同じ香りなんだろうなと思うと少し微妙な気がしないでもないが、まあいい匂いであることに違いはないのでおれはそれ以上は追及せず形のいい後頭部に顔を埋めなおした。
それがチャンピオン業で忙しいダンデが自分だけのダンデだと思える一番の時間だったのだ。
が、今日に至って事情が変わった。
ダンデがいつもと違うシャンプーを使い始めたのである。
実家のお母さんが新しいシャンプーを買ったものの髪質に合わなかったとかでほぼ新品のそれをダンデに譲った、というか、送りつけてきたらしい。
ちょうど前のが切れかけていたからという理由でなんの躊躇いもなく使い始めたそのシャンプーは、いままでのミツの香りとは違う、一面の花畑を彷彿とさせるフローラルな香りのものだった。
一般的にいっていい香りなんだろうと思う。
おれも特別嫌いというわけではないが、ただ、なんというか。
このシャンプー、この香りはダンデと付き合う前、人間不信必至の別れ方をした彼女と同じものなのだ。

「……なあ、おれこの匂いあんまり好きじゃないんだけど」
「そうなのか?なら使い切ったらもとのシャンプーに戻すぜ」
「ああ……うん……たのむ」

元カノと同じだから今すぐやめてくれとは言い辛くて、少しの逡巡のあとシャンプーが無くなるまでの我慢だと諦めることにした。
後ろから抱きしめて堪能するのはしばらくおあずけだ。
キスくらいなら息を止めていれば大丈夫だけどセックスは、ちょっとそういう気になれないかもしれない。
だってダンデから元カノの匂いとか本気で嫌だ。
絶対萎える。
新しいトラウマができてしまう。
いつも誘うのはおれからだしダンデは気にしないんだろうけどおれはつらい。
というかダンデが気にしないだろうことがたやすく想像できてしまうせいで二重につらい。
まさかこんなところで愛の大きさの違いを確認することになろうとは。
恨むぞ、ダンデのお母さん。