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私と仕事どっちが大事なの、なんてカテゴリが違うものを同じ秤で比べるのがナンセンスだということはわかっている。
しかしそれでもここに来るたびにキバナの一番はおれではないんだろうなと打ちのめされたような気になるのは彼の寝室、壁際の本棚にずらりと並ぶノートや雑誌、録画ディスクのせいだ。
意外と勤勉な性質であるキバナが分析のために記録し、残しているそれらはほとんどがチャンピオンダンデについてのもの。
無敗のライバルに喰らいつき勝ちを狙い続ける執念に恋情が混じっているとは思っていないが、想いの大きさを比べたらきっとキバナの一番はダンデだろう。
欲というものにはきりがない。
キバナが自分と同じ意味でおれを好いてくれていると知ったときには死んでもいいとすら思えたのに、今はキバナがダンデへ向ける感情がいっそ恋であれば詰ることもできたのにと思う。
分別のある大人としてそんなどうしようもない汚い気持ちを表に出せるわけもないが、せめてこれだけはとキバナが飲み物を用意してくれている間にそっと本棚に近づいた。
手を伸ばしたのはブックエンドの横、空いたスペースの端っこにぽつんと置かれているジュラルドンのフィギュアだ。
ほんの親指ほどのサイズのそれは子供だった頃のおれがキバナに渡したもの。
おもちゃにすぎないので当然安物だが全身が金属で作られている精巧なジュラルドンはまだ相棒のポケモンがいない子供のおれにとっては一番の宝物だった。
さすがに錆びているかと思ったが昔と変わらずピカピカなジュラルドンを掌に転がしじっとのぞき込む。
おれが明け渡した一番がチャンピオンとのバトルのためのあれこれに追いやられている様は見ていてつらい。
元々自分の物とはいえ恋人の私物を盗むのは気が引けるが正直に返してくれと言って理由を聞かれても困るので、おれは結局ジュラルドンを本棚には戻さずそっとハンカチにくるんで鞄に入れた。

『キバナの一番がおれじゃないならおれの一番もあげない!』

心の中で子供ころの自分が意地悪く吐き捨てると、それで折り合いがついたのか胸のもやもやが少しマシになった気がした。
おれの手持ちはトレーナーに似て嫉妬深い子ばかりだから怒られてしまうかもしれないがこのジュラルドンのことはおれが大切にしてやろう。
キバナが淹れてくれたコーヒーはいつも通りおいしかった。