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『こんにちは、俺は無力な一般人です。』

初対面のやつがそんなことを言いだせば大抵の人間は「なに言ってんだこいつ」と冷めた目を向けるだろう。
もしそれを言ったのが見るからに悪人面の奴ならまたちょっと違った反応なのかもしれないが俺はモロ人畜無害な草食系。
ちなみに草食といっても草タイプの技をくらって攻撃力が上がるわけではない。
場合によってはくらった瞬間普通に死ぬであろう、見たまんまの一般人だ。

繰り返す。
『こんにちは、俺は無力な一般人です。』

ああ、つまり何が言いたいかっていうと毎度起こる惨劇は俺にはどうしようもない天災のようなものなわけで。
それでも一応トレーナーとして手持ちのポケモンが起こしたおいたには責任が生じてしまうわけで。

つまり、俺は今泣きたい状況なわけで。





「ワシボンンンンン!!いちいち!ケンカ!売るなってば!!」

勝手にモンスターボールから出て突っかかっていくワシボンを俺が必死で引きとめていると、エリートであろう青い髪した男が苦笑して「バトルしようか?」と訊ねてきた。
エリートくんからすれば格下も格下、馬鹿が力量も測らずにケンカを売ってきた程度にしか考えていないのだろう。
正直エリートが敵を見た目で判断するなと全力で叱り飛ばしたい。
体長五十センチのヒナわしポケモンだけど、こいつ……レベル50なんだぜ?
しかもバトル許可したらポケモンそっちのけでトレーナーにフリーフォール極めるんだぜ?
見た目はそこまで凶暴そうに見えないだけにタチが悪いったらない。
そんなことにならないためにも身体を張って抑え込む俺の腰でポンと小気味良い音が鳴った。
出てきたのは最近手持ちになったばかりのズルッグだ。
電波集団に囲まれたときなんかには悪タイプのポケモン相手に果敢に立ち回ってくれる心強い仲間だけど、今の状況では俺涙目である。

「ズルッグやめて人間に頭突きしないであ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ごめんなさい!ごめんなさい!!」

両手でワシボンを抑えている以上ズルッグは当然自由の身。
出てきて一番にばっちり目があったエリートくんは身構える間もなく頭突きの餌食になって倒れこんだ。
大型のポケモンですら怯む頭突きを受けて人間の頭がい骨は果たして無事でいられるのだろうか。
不可抗力とはいえ自分のポケモンが目の前で人を殺したとなるとトレーナーを続けることができなくなってしまうので、ここはどうにか根性で持ちこたえていただきたいところなのだが。

「ぬおおおおおお!!」
「あっ、よかった生きてた!」

俺の自己中心的な心配をよそに端正な容姿からは想像し辛い声をあげて元気に転げまわるエリートくんにほっと一息――ついている暇はなかった。
悶絶するエリートくんを逃がすまいとするようにその場に響いたボールの開封音はさしずめエリートくんと、そして俺にとっての終末のラッパである。


「サザンドラ痙攣してる人間に追い打ちかけちゃらめええぇぇぇえええ!!」


ボールから飛び出した瞬間視界に入ったじたばた状態のエリートくんを、サザンドラは本能に従い正しく『敵』と判断した。
そこから先は人間に対してやっちゃいけないわざのオンパレードである。
りゅうせいぐんとだいもんじをなんとか回避したエリートくんだったがなみのりでついに仕留められてしまったらしい。
というかエリートくんすごい回避だな。
体力ゲージが赤になってからの爆発力が素晴らしい。
ポケモンだったら手持ちにしたいくらいだ。

「……いや、現実逃避はよそう」

とりあえず今は早いところ移動するのが先決だと判断し、サザンドラのなみのりで一緒にやられたらしいワシボンとズルッグを回収して自転車にまたがる。
本当ならそらをとぶで遠い街に行くのが一番なのだが、こういうときに限ってサザンドラの広範囲攻撃でワシボンが気絶してしまうため俺は未だに空の旅を経験したことがない。
まあ体長五十センチにどうやって乗るのかという問題もあるし、少なくともウォーグルになるまで浪漫飛行はおあずけだろう。

その後なんとか辿りついた二つ先の町のポケモンセンターでみんなを回復させてジョーイさんに相談という名の愚痴をこぼしていたら目を覚ましたワシボンが頭に乗りズルッグが腹にへばりつきサザンドラに背中からのしかかられるという奇妙な事態に発展した。
こいつらの唯一の救いは女性に対して攻撃をしかけないところである。
フェミニストなんだろうかと首を捻っているとジョーイさんが「敵と恋敵は別ですものね」とコロコロ笑った。
ポケモンと人の関係に恋敵という言葉を使うあたりこの町のジョーイさんは若干乙女思考なようだ。
わざわざ率先して乙女の夢を壊したくはない。
とりあえずこいつらが全員♂だということは言わないでおこうと心に誓い、俺は曖昧な笑みを浮かべながらそっと涙をぬぐった。



(そろそろ指名手配されそうです)