こちらジョウゴ、深夜の2番道路への侵入に成功しました。 月明かりがあるとはいえ都会とは言い難いサンヨウシティ周辺の道路は整備もほとんどされておらず真っ暗、超怖い。 しかし未来のパートナーを見つけるためにはそんな軟弱なことは言っておれんのです。 目指すは昼に母さんと激しく戯れ疲れきって眠っているであろうヨーテリーLv.2。 十匹ほどいた中からレベルが低く一番体の小さいものに目印のリボンをつけておいたのだ。 縄張りも確認しているしあとは気付かれないように捕獲するだけである。 まあそれが出来ればここまで苦労していないわけだけど。 野生のポケモンはとにかく感覚が鋭い。 嗅覚や聴力が人間とは比べ物にならないのだから気配を悟られないようにするのは至難の業。 かといって警戒して戦闘態勢に入ったポケモンを捕まえるのは俺には無理なのでDo or Die、やるしかないのだ。 この五年で培ったことを全てこの一時にかける。 俺はスッと一度だけ大きく深呼吸した。 息を殺し気配を絶った俺はまさに無。 風の流れを読んで匂いを悟られないようにまわりこみ、足を真っ直ぐに下ろして歩行時の音を最小限に抑える。 身体の震えは筋肉で無理やり抑えたが喉がカラカラだ。 これがラストチャンス、そう思うだけで心臓爆発しそうだし意味もなく涙が出てくるし気分的には最悪。 だが、それだけの価値はあった。 目の前には安心しきった様子でぐっすりと眠るヨーテリーの姿。 終わった後立ち上がれなくなるんじゃないかというほど緊張しながら俺はモンスターボールを持った手を上げ―― ガサッ 「うぉあ!!?」 ――叫んだ。 唐突至近距離から発せられた大声に狙っていたヨーテリーが飛び起きて一目散に逃げてしまったが今はそれどころではない。 足元から突然飛び出した『何か』に驚き最後のモンスターボールを落としたのだ。 偶然その『何か』に当たったモンスターボールは光を発して『何か』を吸い込む。 たった一度のチャンスが、『何か』に使われてしまった。 「心臓痛てぇ……じゃなくて何!?なんだよ今の!」 力強く左右に揺れるモンスターボールに俺は慌てて両親から借り受けたポケモン図鑑を取り出した。 ポケモンの捕獲率はレベルの高さで相当変わってくる。 昼に見たヨーテリーの群れの一匹なら高くても4。 まだ希望は持てるレベルだ、が。 淡く発光する画面に映った緑色を見て、俺は愕然とした。 「ツタージャ……レベル……じゅう、ろく」 ツタージャ。 イッシュ地方で初めての手持ちとして人気の高い三匹のうちの一匹。 しかしながらそのほとんどが既存のたまごから孵化させたりしたもので野生の生息地は不明。 知ってる。 知ってるけど……なんでそんなポケモンが、なんでこんな草むらの、俺の足元に!! Lv.2の眠ってるポケモンに必死こいてた俺が今しがた元気いっぱいで草むらから飛び出してきたLv.16を捕獲? 無理に決まってんだろ! 当然といったように捕獲失敗の音がする。 人生の終わりと同義だからだろうか。 モンスターボールのふたが開くのがとてもゆっくりに見え、俺の頭を走馬灯が巡った。 (今まで、長かったなぁ) 五年。 十歳の誕生日から今まで五年だ。 雨の日も風の日も夏の日差しや冬の雪にも負けず毎日毎日パートナーを探してきた。 普段のおこずかいはもちろん誕生日祝いやおとしだまだって全てモンスターボールにつぎ込んできた。 年下に馬鹿にされ年上に憐れまれ幼馴染がジムリーダーなんて雲の上の存在になってしまっても、それでも諦めないでここまできた。 それが、これで終わり。 終わりだ。 本当に? こんな不意打ちみたいな出来事に対するミス一つで? 「……なにそれふざけんなみとめない」 よみがえる苦労の日々。 涙の苦さと鼻水のしょっぱさ、それが俺を覚醒させた。 「アアアアアッ!!諦めてたまるかああああ!!」 『!?』 開ききる瞬間地面に飛びついて両手でモンスターボールを押さえつけるとボールの中でツタージャが大きく跳ねた。 そりゃそうだ。 もうすぐにでも外の世界ってときに突然再度ふたが閉じたのだから。 「俺と友達になりませんかああぁああ!?むしろ一生愛して大切にするって誓うから!お願いだから大人しく捕まってええええ!!!」 そんな要求飲めるかとばかりにバッタンバッタン暴れるツタージャに合わせてモンスターボールが跳ねる跳ねる。 こいつさっきまで手ぇ抜いてたんじゃないのってくらいの暴れ具合だ。 しかしここで逃がすわけにはいかない。 「俺は、ポケモントレーナーになるんだああァァ!」 一撃一撃が重たいパンチのようなボールの動きを全身全霊で押しとどめる。 戦いは、空が白むまで続けられた。 |