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ポケットモンスター、略してポケモン。
人間の傍らで生きる彼らの生態は、しかしそのほとんどが謎に包まれている。
一つ言えることがあるとすればポケモンは今や人類にとってなくてはならぬ存在だということだ。
警戒心の強い野生のポケモンに道をふさぐ木や岩、暗い洞窟、流れの速い海。
飛行機や船を誘導する光や電気だってポケモンが出しているので人の手だけで安全に運航することは不可能といえるだろう。
つまり心を許せるパートナーとしてのポケモンがいなければ人は生まれた町から移動することすらままならないのである。
衣食住、どれをとってもポケモンがいなければ話にならないこの世界。

つまり、
つまり。

「ねえジョウゴ、あなたがポケモンを扱うのは難しいのかもしれないわ」
「このモンスターボールを最後に、トレーナーの道はすっぱり諦めなさい」

俺は今親によって明るい未来を閉ざされようとしております。






太陽を焦がせ






普通はじめてのポケモンというのは親や親類、またはポケモンに詳しい人が十の節目を祝って譲渡するものである。
たまに極々幼いうちに自分のポケモンを持つ者もいるが、それは大抵家が裕福だったりトレーナーとして英才教育をなされる人間だ。
つまり将来のエリートないしおぼっちゃまおじょうさまなブルジョワジー。
しっと、爆発すればいいのに。
さてほとんどの人間が十歳でポケモンデビューなこの世界で十五歳にして手持ちゼロな俺の異端さ、理解していただけるだろうか。
別にポケモン嫌いだとかポケモンアレルギーがあったりするわけではない。
妹の手持ちであるチョロネコには寝そべっているとき上に乗られたりするし母のニャルマー&ブニャット、父のレパルダスも餌をねだるときだけは近寄ってきてくれる。
改めて考えるとすっごく舐められているとは思うが、まあ悪い関係ではないだろう。
あとうちの家族全員猫派なのに俺だけ犬派とかまじアウェイ。
だからこんな仕打ちを受けるのかと悩んでみたり。
いやいやわかってはいるよ。
親は別に俺に辛くあたっているわけでも意地悪しているわけでもない。
うちは世間とちょっぴり、いやかなりズレているが基本的にみんな家族想いの優しい家庭だ。
十歳どころか十五歳になった今でもパートナーを手に入れられない俺。
そんな俺にトレーナーの才能がないとして才能もないのにその道に入ればつらい思いをすることは確実で、だからそうなるまえに諦めろとそういうことなのだろうが。

まったくもってビッグなお世話!!

俺に才能がないんじゃなくてあんたらがおかしいだけだと心の底から叫びたい。

大体木陰でお昼寝してたら起きた時虫ポケモンが体中にくっついてて発狂しかけた(妹談)とか
洞窟で大量のコロモリにハート形のキスマークつけられて母さんに嫉妬された(父談)とか
ものひろい特性のヨーテリーが群になって貢ぎに来てくれるけどやっぱり猫が好き(母談)とか。

どう考えてもおかしなフェロモンを出しているとしか思えないだろう。
ちなみにアララギ博士が何度か調査にいらっしゃったが詳しいことはわからないらしい。
最早イッシュの七不思議にエントリーされる勢いだ。
そんなメロメロ真っ青謎のフェロモン体質なうちの一族では『最初の手持ちは自力で入手すべし!』という横暴な家訓が幅を利かせており、尚且つ俺以外の誰もがそれを苦ともしない目茶苦茶な事態が発生していた。
そりゃそうだ。
寄ってきたポケモンに「ともだちになって」って言うだけでゲットできるんだから。
でもさ、普通に考えて体力満タンで眠りでもマヒでもない健康体なポケモンをゲットできると思うか?
無理だろ。
つまりなんの因果かこのチート家系にまったくもって平々凡々な俺が生まれてきてしまった結果が今の状態というわけだ。
俺全然悪くないじゃん。
悪いのは神様の悪戯じゃん。
俺だってポケモンと戯れたいしマッサージとかエステに連れて行って懐かれたい。
ライモンのミュージカルに出演させてロビーに写真飾ってもらいたい。

なのに!


「ポッドデントコーン協力して!」

「今回は絶対無理、親父さんに止められてる」
「ジョウゴならきっと大丈夫だよ」
「いい加減潮時だと思って諦めればいいのでは?」

駆けこみ寺と化しているサンヨウジムで俺は思いっきり舌打ちした。
俺を置いてさっさとジムリーダーにまでのし上がった三兄弟はポケモンゲットに関して完全に非協力を貫くつもりらしい。
幼馴染役に立たねぇ。

「別にいいじゃないですか、ずっとサンヨウにいればどうしてもポケモンが必要ってわけでもないんだから」
「俺だって旅に出たい」
「却下。旅行ならこのコーンが連れて行って差し上げます」
「旅行じゃなくて旅。そして一人旅」
「却下」

なんで俺が旅に出るのにコーンの許可をとらにゃならんのだ。
そもそもコーンは俺が手持ちをつくることに対して非協力どころか大反対な気がある。
数年前までモンスターボールを投げる瞬間に大声を出したり手を叩くなどといった妨害すらしてきたほどだ。
コーンなんて嫌いだと騒いで仲裁にはいったポッド、デントともども一週間ほど無視したらやめてくれたがその後も態度は一切変わらない。
なぜそこまで反対するのかと聞いたら「変な世話してポケモンを傷つけそうだから」だと。
うん、完全に馬鹿にされてる。

「ジョウゴ、手は出せないけど応援してるから」
「応援するなら金をくれ。それで追加のモンスターボール買うから」
「バトルで勝てたら払うけどね」
「はははは面白い冗談、イッツサンヨウジョーク」

デントは応援してくれるけど絶対に手伝ってはくれない。
逆にムカつく。
きっと大丈夫って大丈夫じゃないから手持ちがいないんだよコンチクショウ。
こうなると「今回は絶対無理」でも今までなんだかんだと付き合ってくれたポッドのありがたさが身にしみる。
たとえ泣き落としで縋りついた結果だとしても自分のモンスターボール分けてくれたり捕まえ方の指導してくれたポッドはいい奴だ。

とにもかくにも幼馴染に協力の意がない以上俺は親に渡されたモンスターボール一球に人生をかけるしかないらしい。
大丈夫、やってやるさ。
俺は自分で未来を切り開いてみせる!

「ポッド、今まで色々ありがとう。ポケモン捕まえたら一緒にライモンシティ行こうな!」
「え、ちょ、ライモン!?」

そしてミュージカルにいってマイポケモンの写真を撮りまくる。
もうダストダスとかベトベトンでも愛せる気がしてきたぜ。
生息地域違うけど。

決意を新たにジムを飛び出した俺が顔を赤くしたポッドと、ポッドに冷たい視線を向ける二人に気づくことはなかった。