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天女が現れた。
優しく美しく、純粋で嘘がつけない性格の天女。
吉茂が何を考えているのかわからず愛の言葉を素直に受け入れられなかった俺は、吉茂と正反対のわかりやすいその存在に傾倒した。
天女に構っている間は吉茂のことを忘れられる。
それだけの理由で普段なら警戒しか抱かないだろう天女という不審者に異常なほど優しく接して世話を焼いた。
俺は弱っていたのだ。
好きなのは自分だけかもしれない。
すぐに飽きて捨てられるかもしれない。
そんな考えは弱みにしかならないので誰にも言わなかったし言うつもりもなかったが、何か悩みがあるということに気づいたらしい天女は俺の手を引いて木漏れ日へと誘った。

「寝不足だから悪いほうに考えちゃうんだよ。ひと眠りして起きたら、全部よくなってるから」

ふわりといい香りが漂う。
吉茂のようなドキドキする香りじゃなくどこまでも優しくて安心する香り。
そういえば最近いつにも増して眠りが浅かった。
委員会の前に、少しだけ眠っておこう。
吸い込まれるように視界が黒くなる。
半ば意識を失う形で俺は眠りに落ちていった。


それからどのくらいたったのだろう。
突然の衝撃に寝起きの頭がついていかない。
無表情で俺の頬を張ったのは最近ろくに顔すら合わせていない俺の恋人。
なんだ、お前はいままで散々好き勝手やっていたのに俺は女の膝を借りるだけで駄目なのか。
嫌みの一つでも言ってやろうと思ったのに妙な後ろめたさと吉茂の真剣な表情に言葉が詰まってうまく出てこなかった。
こんなに真っ直ぐ視線を絡めたのはいつ振りだろう。
頭の片隅でぼんやり考えていると吉茂がゆっくり口を開いた。

「文次郎、前に聞かれたたことの答えが出た」

俺は、お前の精神を好いていたみたいだぞ。
そういって背を向けた吉茂を隣にいた小平太がわき目も振らず追いかけていく。
小平太が追いついて、腕を絡めるでもなくただ添うように横に並んだ。

腕を伸ばす。
届かない。
なんで。

そこは、俺の場所だったのに。



(終わってしまったと悟ったから)