「文次郎、愛してる」 「…………」 先日正式に恋人になったばかりの潮江文次郎はどうも俺の愛を信じていないらしい。 愛してるというと嘘だろうと返されるのが常、最近の無言は俺の努力の結晶だ。 これまでの俺の素行の悪さが原因とはいえ寂しいことである。 「愛してるよ」 甘い様子を一切見せない文次郎だが交際を了承する程度には俺のことを好いてくれているらしいので、この関係に愛がないだとか変な心配はしてほしくない。 そんな思いから苦虫を噛み潰したような表情の恋人を抱きよせてもう一度耳元でささやいたら思いっきり頬を抓られた。 「お前の愛してるの軽さは異常だ」 「これでも一応愛をささやくのは文次郎が初めてなんだけど」 いつも一夜限りの付き合いしか持たなかったから誰かを愛したり愛してほしいと思ったことなどなかったのだ。 そう伝えると文次郎が少しだけ恥ずかしそうに視線を外した。 あ、ちょっといい感じ。 「俺の、どこが好きなんだ」 「………どこだろう?」 素直に答えたらグーで殴られた。 まったくもって容赦がない。 「文次郎、」 でも、そんなところも好きなんだ。 (愛を認めてほしいから) |