×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





「私はね、ずっときみと同じ世界を見ていたいんだ」
「はぁ」

毎度おなじみで唐突に始まった組頭の語りに俺はやれやれと耳を傾けた。
周囲に人がいるときはそうでもないのに二人きりになるとこの人はどうにも電波だ。
いつもの食わせ物な感じとはまた違う普通にわけのわからない思考回路はどうやら俺限定で発動されるらしい。
俺一人に対しあからさまに意味不明な態度をとるのは何故なのかと疑問に思いその疑問をオブラートで幾重にも包んで遠まわしに柔らかく問うたところその答えは「きみは私のコイビトだから」とのことだった。
ぐらりと眩暈がしたものの、それ以来俺は大人しく組頭のコイビトをやっている。
告白したされた了承受諾その一切に憶えがないのだが、どの道組頭から求愛を受けて逃れるすべなど一般平忍者の俺にありはしないのだから騒いだところで同じことだ。

「例えばもしきみが、どう見ても黒なのに白だというとするだろう」

私がどうするかわかるかい、と目を細めて聞いてくる組頭に、内心どうでもいいと思いながらそれでも律儀に言葉を返す。

「えーと、俺と一緒に白だって言ってくれますか」

大抵はそうだろう。
ノリ的にこう、君が白だというなら黒でも白だ!みたいな。
しかし俺の模範的回答に組頭はこてりと首を傾げて目を瞬かせた。

「そう言い張ったって私に黒く見えている時点で世界は決定的に違うじゃない」
「まあそうですね」

全くどうでもいい。
そして無価値で無意味な会話だ。
雑学にすらならないこの人の世界観は、それでも彼がうち勤め先の組頭で更に恋人という今後の俺を大きく左右する二大ポジションである限り俺にとって重要かつ重大なものなのである。

「そうなったら私は、黒と白を消すよ」
「抹消ですか」
「抹消だね」

色をどう消すかなんて質問は野暮である。
この人なら概念から無くすことくらい普通にやってのけそうなので突っ込みはしない。
以前は突っ込み待ちなのかと心底悩んだが、なんのことはなくて、特に何も考えてはいないのだ。
俺を愛すること以外は。

「ときに荒木くん、君、あの学園に新しく来た事務員さんどう思う?」
「………どうも?特に何も思いませんが」

あえて感想を言うなら客をとればいい稼ぎ手になるだろうということくらいだ。
あとかみさんにするには薹がたっているかなっていう。
どちらにしたってろくでもない。
俺のそんな気の抜けた返答は一応組頭のお気に召したのか、にっこり片目だけで破顔した彼はうんうんと頷き「八十点」と口にした。

「八十ですか」
「八十だね」

俺の答えが八十点、なら残りの二十点の差分この人は彼女をどう思っているのだろう。
地味に気になる、が、聞いてもいいものか。
どう考えたってあまりいい話ではない気がする。
そんな俺の小さな葛藤を見透かしてか組頭が揚々と語りだした。
なぜかはわからないが組頭は随分と機嫌がいいようだ。

「私はね、彼女大嫌いだよ可愛らしい顔をして荒木くんを見て、憎たらしい。今日だってあんなに頬を染めて。きっと私の目に映る君と彼女の見る君は同じようにキラキラしているんだろうね。荒木くんは私のものなのに。彼女と世界を共有するなんて真っ平だよまったく」
「無関心と大嫌いの間は二十点なんですか」
「大好きの反対が大嫌いで愛の反対が無関心ならそう違いはないだろう」
「なるほど」

つまり組頭はいい齢をして彼女に嫉妬したというわけか。
一応曲がりなりにも恋人の嫉妬を受けて可愛らしいと思うより前に非常な息苦しさとプレッシャーを感じるのは組頭ゆえだ、もう気にしない。
気にしてたらこの人の恋人なんてやってられない。
まあ計らずとも性質の悪い嫉妬を解消できたようだからよしとしよう。
ボーダーラインが何点かは知らないが答えを間違えていたら彼女は確実に概念のレベルで抹消されていたわけだし、人助け人助け。
今度学園に行ったらお礼として茶でもせびってみようかと思いながらふと気になったことを聞いてみる。

「俺の目に俺はキラキラしては映らないんですが、これは世界の齟齬では?」
「君の目に映る私がキラキラしてれば問題ないよ」
「ああ、なるほど」

荒木くんも私が好きだろう?愛し合う二人は一緒でないと。
そう言って組頭は嬉しそうに腕を絡めてきた。
電波な会話に付き合っていたせいか、皮膚や肉の境界線を越えてそのままとぷりと融合してしまいそうなおかしな気分になる。
溶けて一つの人間になったらこの人は幸せなのだろうかと考えたが、おそらくそれは違うのだろう。
少なくとも俺はキラキラした組頭が自分に溶けて見えなくなってしまったら泣くと思うから。


(俺がそう思うのだからあなたもそう思うでしょう?)