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「吉茂先輩、昨日注意されたところ確認したいのでまた稽古付けてください」
「残念だったな吉茂は今から私と二人っきりでトレーニングだ」
「無茶を言うな仙蔵、吉茂はまだ傷がふさがったばかりなんだ。リハビリを兼ねて保健委員長の僕が相手する」

俺すごいモッテモテ。
普通にモテモテなら何の問題もないのに、悲しいかな「人を庇うのをやめないなら余裕で攻撃受け止められるくらい強くなればいいんだ!」という素晴らしい発想のおかげで毎日容赦なくしごかれてます。
伊作なんてリハビリとか言いながら一番スパルタだしね。
最近の運動量半端ない。
たぶん今学園内で一番忍者してるのは俺だと思うよ、ギンギン。

「先輩、俺に付き合ってくれますよね」
「あ、こら貴様っ」
「卑怯だぞ尾浜勘右衛門!」

最上級生二人と争うより俺に直接約束を取り付けるほうが早いと踏んだらしい勘右衛門がどーんと胸に飛び込んできた。
傷ふさがったとはいえ本当に遠慮なしだな、別にいいけどさ。

「吉茂先輩」
「……あー、」

まんまるな目に期待を宿して俺を覗き込む勘右衛門。
いつもならなんだかんだでみんなと鍛錬してからお茶飲んだり勉強したりするんだけど、今日は駄目なんだよね。

「ごめん。これから長次と出かけるんだぁ」

申し訳なさそうにそういうと、火花を散らしていた三人がそろってきょとんとした。
なに、俺なんかおかしいこと言った?

「でも、留三郎が松芽さん今日は長次と町に行くって……あれ?」
「確か行商が来るからと言っていたな。行商が町にとどまるのは今日だけだから間違いないだろう」

記憶違いだったかと首を傾げる伊作の言葉を仙蔵が肯定する。
マジか……うーん、ちょっと誤算発生。
長次が松芽さんに一緒に行かないこと伝えなかったのか、それとも約束ともいえない程度の会話を松芽さんが勘違いしちゃってるのか。
まあ、俺の方が先約!なーんてガツガツいくキャラでもないし、こういう場合とる行動は一つだ。
「俺も楽しみにしてたけどこういう場合は女の子優先だよ」とか寂しそうに微笑んで「デートはまた今度二人っきりでね」って意味深な言葉を送ればすでに松芽さんから心が離れかけてる長次は『俺と過ごす次の機会』にのみ意識を向けるだろう。
よし、じゃあ今日は長次との予定キャンセルして三人とわいわいやる方向でいこう。
けってーい。

「もしかして俺、デートの邪魔しちゃったとか……あ、長次!と……松芽さん?」

気まずそうに少し硬い表情でつぶやいたところにとてもいいタイミングで長次が現れた。
そして、後ろの木の陰に見えてるのは松芽さん……だよね?
……隠れてるつもりなのかな?あれで?

「なにやってるんですかねあの人」
「尾行、とか?」
「少なくともこれから長次と連れだって町へでるようには見えんな」

ありゃ、冷たいお言葉。
勘右衛門はともかく仙蔵と伊作の松芽さんへの印象が『逢引に横やり入れられた可哀想な女の子』って感じじゃないのは意外だ。
二人の中で『俺と長次の約束に松芽さんが割って入った』のが確定してるっぽい。
むむむ……となると下手に俺が引いて松芽さんとのデートを勧めたら自己卑下が過ぎて嫌味になっちゃうな。
なら、ちょっと危ないけど頑張っちゃおうか。

土の上に無造作に置かれた枝と石ころに、俺はゆっくりと目を細めた。