「伊作ー、別にそうはりつかなくったって学園内でそうそうなにも起こりやしないよ」 「そんなこと言って二回も運び込まれたのは誰!?」 自主練中傷が開いて出血、医務室から出て行った後に貧血で倒れて意識不明。 お前はなんでそう自分を省みないんだと怒りで顔を赤くしていると吉茂がくすりと笑った。 「なにを笑ってるんだ」 「ん?そういえば伊作はずっとこうやって俺に付いて心配してくれてたんだよなーって思ってさ」 ありがとう、なんて。 人が怒ってるときにへらへらするなという意味合いで放った言葉に予期せぬ感謝の意が返ってきて、一瞬で頬の赤が怒りとは違うものに変わってしまった。 吉茂は本当に僕の喜怒哀楽を引きだすのがうまい。 というか、僕が吉茂に弱すぎるのか。 「頼りにしている」と言われるだけで舞い上がってしまうのだから、掌でころころころがされている気にすらなってくる。 「松芽さんが来てからこういうのあんまりなかったから、少し懐かしくなった」 笑ってごめんな、と言って僕から視線を逸らした吉茂は少しだけ寂しそうだ。 そういえばつい最近までずっと一緒にいたのに、こうして並んで歩くのが何年ぶりのようにも感じる。 なんでだろう、なんて自問するまでもない。 僕が松芽さんばかり追いかけて、吉茂のことを見なかったせい。 先に吉茂から目を離したのは僕なのに、いま隣にいる吉茂が僕を見ないことが酷く心臓を痛めつけた。 「吉茂は、一年生の頃からよく怪我してたよね」 「主に伊作に巻き込まれてねー」 「いいじゃないか。どうせ怪我するんだから」 そう、吉茂はいっつも僕を庇って怪我をして、僕のせいかと悩んで離れてみたらそれはそれで別の誰かを庇って怪我をする。 吉茂はいつも守る側の人間なのだ。 だからこそ、僕は彼の傍にいた。 どうせ怪我をするのなら僕を庇えばいい。 そうすれば僕がその場で彼の傷を治療してやれる。 なのに。 そう思っていたのに、なんで離れてしまったんだろう。 吉茂が傷つくのは嫌で、でも吉茂に守られるのは嬉しくて、吉茂を治せることに喜びを感じていたはずなのに。 「……吉茂、まだ、間に合うかな」 「間に合う?何に?」 「吉茂は、まだ僕に治療を任せてくれるかい?」 「とーぜん!俺の寿命は伊作次第だ!」 肩を強く叩かれてじわりと身体に熱が広がる。 ああ、これだ、この感じだ。 松芽さんとの時間は楽しいけど、それじゃ駄目。 吉茂が他の人間を庇うのも知らないところで怪我をするのも許せないもの。 「なら存分に長生きしてもらうよ」 「さっすが伊作、頼もしいなー」 吉茂にはずっと僕の隣で長生きしてもらう。 これから先の未来に誓って、僕はゆっくりと息を吸い込んだ。 |