「ちょ、吉茂なにその傷!」 勘右衛門とのデートの後、脱衣所で服を一気に脱ぎ捨て風呂場に入ると伊作の慌てた声が追いかけてきた。 ここ一週間保健室に軟禁されてた俺に対してはまったく今更な言葉だ。 というか伊作、保健委員長でなおかつ同じ組だよ?ほんとーに今更。 見舞いに来てくれないはくじょーだって憤ってたら怪我したことすら知らなかったとかひどい!って大げさに嘆いてみようか一瞬迷ったが傷を見る目が真剣そのものだったので自重する。 帷子の上から抉られた背中の傷はまだ生々しく、ギリギリ包帯を取っていいかどうかという状態だ。 盛り上がることもなくただ薄い皮膚に覆われただけの肉はぶっちゃけグロい。 「山賊にね、ちょっとやられただけだよ。医務室いったんだけど新野先生不在だしさ」 数馬くん頑張ってくれたんだけどねー。 緊張感なく笑いながら話すと伊作がなんで僕のところにこなかったの!と声を張った。 なんでって、ねぇ。 「伊作、松芽さんと町にでてたからいなかったじゃん」 あの日の朝方松芽さんが誘ってくれたんだと嬉しそうにはしゃいでいた伊作の声を思い出すと嫌な笑いが浮かびそうになる。 耐えろ俺、今はそういう場面じゃない。 「ってまあ俺もそのこと忘れてて仙蔵に背負われたまま伊作のこと探し回ってたんだけどね」 本当は新野先生の不在も伊作のお出かけも全部わかってたんだけど半泣きで駆け回る仙蔵が面白くてつい知らんぷりしてしまった。 溜息をつきながら苦笑すると伊作がみるみるうちに青ざめていく。 可哀想。 でも、お風呂のもわっとした湯煙のせいで俺は気付かない、そういうことで。 「ご、めん。ごめん、吉茂、僕」 「だいじょーぶだって。今回も一応生きてるだろ?」 伊作を宥めながら、ふちに腰かけ足だけ湯につける。 この角度なら抉れた傷がよく見えるだろう。 今回は大丈夫だったが次は? 次は死ぬかもしれない。 伊作が松芽さんとぶらぶら出歩いておしゃべりしている間に、伊作の大好きな俺は命の危機に晒されていたのだということを視覚的に刻み込む。 後一押し目の前で倒れでもすれば、伊作は俺を失う恐怖で俺の傍から離れられなくなるだろう。 俺を失うわけにはいかないという使命感は彼女の存在を遠ざける。 そこに彼女が無理やり割り込んできたら、そのとき彼女は部外者で邪魔者でしかないのだ。 ああそれにしても汗が染みて背中が痛い。 次はほんとに死ぬかも、と呟いたら伊作がマジ泣きし始めて焦った。 俺って愛されてるよなー。 知ってたけど。 |