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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「あ、あのっ荒木吉茂くん……だよね」
「はい、そうですけどなにか?」

躊躇いがちに伸ばされた手が着物に届く前に一歩間をとりよそ行きの笑顔で用件を聞いた。
ええとね、あの、その、えっと。
自分から呼び止めた癖になかなか話しだそうとしない松芽さんに、微笑を貼り付けたまま辟易する。
この子何事もなく出会っていたとしても相容れなかっただろうな。
ぶっちゃけ大嫌いなタイプだ。
求めれば与えられるのが当然?努力すれば報われる?
まさかでしょう。
求めるにはそれなりの覚悟が、報われるには相当の結果が必要なんだよ。
わかるかな?わかんないんだろうなぁ。
わかってないから、明らかに外出予定のある、勘右衛門っていうツレがいる俺相手にもたもた自分のペースで喋ってるんだもんなぁ。
時間って有限なんだよ。
さっさとしろ。

「あのね、吉茂くん、仙蔵くんと仲いいでしょう?」
「ええ、親しい友人だと思っています」
「仙蔵くん、最近少し様子が変なんだけどなにか知らないかな」

ようやくか。
そして予想通りか。
こてんと首をかしげ可愛いお顔でこちらを見上げてくる松芽さんに思わず噴き出しそうになってしまった。
しかし俺も一応最上級生、すぐに訝しげな表情をつくって詳細を訊ねる。

「私にはそうは見えませんが……具体的にはどのような?」
「えっと、一緒にお茶しようって言っても断られちゃうし、話しててもすぐにいなくなっちゃうし、悩み事でもあるのかなって」

避けられてるんですねわかります。
物凄くあからさまなのに自分で言っててなぜ気付かないのか不思議だ。
ていうか仙蔵、頑張りは認めるけど手のひら返しすごいね?
距離の取りかた不自然すぎてウケるんだけど。

「あれでいて真面目な奴ですから何かあるのかもしれませんね。教えていただいてありがとうございます」

このこと仙蔵にどう言おうか。
「松芽さんが最近仙蔵付き合い悪いってすねてたぞ、いいのか?」かな。
うん、要約したらそういうことだしこれでいいだろう。

「吉茂先輩、はやくいきましょう」
「ああ、待たせてしまってすまない」

ひょこりと間に入ってきた勘右衛門に微笑みかけ今度本人からゆっくり話を聞いてみますと言いながらさりげなく出門表を彼女の手から奪う。
まだ何か言いたそうな松芽さんに会釈をしてさっさと門を出ると勘右衛門がこちらをじっと見ながら小さくつぶやいた。

「先輩、あのしゃべり方似合ってませんよ」
「そー?昔はずっとあんな感じだったんだけどなー」
「いつの話ですか」

入学以来の付き合いをもつ後輩のもっともな疑問に、俺が答えることはなかった。