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「俺がなんでわざわざ君らが言うところの欠陥品のオジサンのとこまで足運んどるか、まさかとは思うけどホンマにわかってへんの?君らが無能やからやねんで?それやのになんで自分の無能棚にあげて俺に意見できると思うとるん?なあ、身体の出来とらん子供とマトモに打ち合うことすらできんカスが」

 呪力のない面汚し、忌むべき存在である禪院甚爾を堂々と誉めそやし『欠陥品』である禪院亮介のもとへ足繁く通う。そんな恥を恥とも思わない行動を諌めた者に齢十三の少年が返した言葉がこれだ。
 次期当主だ天才だと持て囃されて育った直哉の性格とそれに付随した口の悪さは周知の事実だったが、年長者から禪院で生きる者として反省してしかるべき点を指摘されてまでそんな態度を取るとは誰が思おうか。
 少し首を捻って至極不思議そうな顔で問うてきた直哉に周囲を囲んでいた躯倶留隊の面々は一瞬たじろぎ、しかしすぐさま憤ってみせたが怒声を浴びせられた当人は底が知れたとでもいうように肩をすくめた。

「呪力があるぶん甚爾君より偉うて健康な体があるぶん亮介オジサンより恵まれとるはずやのにその歳なっても弱いんは怠慢のせいかそれとも絶望的に才能ないんか……どっちにしても恥でしかないわ。よう生きてられるね。恥を恥とも思わん、雑草根性ってやつ?」

 禪院に雑草はいらんよと笑って気さくな調子で殺気を滲ませる躯倶留隊隊長の腕をぽんと叩き、進路の邪魔になる置物でも避けるようにして横を通り抜けていった少年の温度のない横顔。
 それをやけに鮮明に覚えていた隊員の男は数年後、亮介の住まう離れへと向かう途中の直哉の顔をたまたま目撃し、そこに浮かんでいた表情に思わずぎょっとした。
 例の一件以来誰もが見てみぬふりをするようになり表立って口にすることもなくなった直哉と『欠陥品』の関係。それが時を経た現在どうなっているのかはわからない。わからないが、ちらと見えたあの表情。
 見せる相手がいない以上作っているわけではないはずの、以前の温度のない横顔とはまるで違う、やけに熱っぽく甘やかなアレは。

「……いや、まさかな」

 あのクズにそんなまともな機微があるとは思えないしもし万が一そうだとして自分にはなにも関係のない話だ。
 一瞬の思考ののち男はそう結論づけて軽く首を振り、いましがた見たもの感じたことのすべてを記憶のなかから消し去った。
 それはきっと正しい選択だったのだろう。
 どれだけ努力しようと才能ある者の足元にも及ばない、所詮雑草に過ぎない男が禪院で静かに生きていこうと思えばタブーには見ぬふり知らぬふりで一切触れないのが賢いやりかたなのだから。