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 ずっと勘違いし続けるよりは少しでも早く気づけてよかったんだろうけどできれば気づきたくなかったってことあると思う。いま完全にそれ。
 なにを勘違いしてたって、夏油傑といい雰囲気だと思っていた。いい雰囲気というのはつまり、恋愛的な意味で。言葉で確認したわけじゃないけど、なんというか手を握ってキスの一つくらいしてみても拒否されないんじゃないかという空気になることが多々あった気がしていた。そう。『気がしていた』だけだ。
 冷静になってみるとバカじゃねぇのと思う。だってわかるだろ。あいつは女にモテる。勘違いに気づいたのだってそれがきっかけだ。自分の方が顔がいいのに最終的には傑に女がホイホイされていくという超個人的謎現象を愚痴っていた悟に「私は優しいからね」となんでもないように答えを示す傑。それはまさしく正答だった。
 悟はとにかく顔はいいが中身がクソだしクソだということを隠しもしない。傑は雰囲気こそ胡散臭いが普通にイケメンで、悟の親友やってるだけあってクソな部分はあるが取り繕うことを知っているし深く関わらない相手には特に優しい。だから女は勘違いして傑に惹かれる。自分だけが特別なんだと思い込む。
 俺もそれだった。勘違いしていた。傑は女にモテて、俺は男で、ただの友人で、男もいけるなんて話聞いたこともないのに二人きりの時の穏やかな空気だとかふと目があったときの傑の表情だとかでいい雰囲気だと思い込んでしまっていた。傑が優しいのは俺に対してだけってわけじゃないのに。数多の女が同じように誤解して恋を育み散らしている事実を知っていたはずなのに。ごく自然と、それが当たり前のように自分だけは特別なんだと思い込んでしまっていた。
 恐ろしい。女に笑いかけられただけで自分に好意があるのではと誤解してしまうヤバいやつがいるという話を二度と笑えない。これまでの人生においてモテたことがない弊害だ。
 調子に乗って恥をかく前で良かったと思う。キスなんかしていたら目も当てられなかった。
 気づいてしまったせいで失恋したけど気づけたからこそ大事には至らずこれから先も友達としてそばにいることができる。態度を変える必要もなく、これまで通りのいい雰囲気のまま笑い合える。
 だからセーフだと心の中で繰り返して自己暗示をかけてみるが鼻の奥はツンと痛いままだった。

***

「なあ硝子、お前の友達紹介してくんね?出会いがなさすぎてこのままだと一生童貞拗らせ続けそう」
「いやー無理だな。絶対紹介したくない」
「ええ……でも俺別に性格は悪くないだろ。顔がもうちょい整ってれば悟よりはモテると思うし友達に紹介できないほどヤバい物件じゃねぇよたぶん」
「モテるわけないじゃん夏油がいるんだから」
「そりゃ傑は女ホイホイだけど競合しない子もいるはずだろ」
「……え、なに本気で言ってる?」

 それまで咥え煙草で笑いながら話していた硝子が「愉快すぎるだろ」と目を丸くして真顔で呟いた。女子の目から見るとそこまでやばいのか俺は。失恋の傷に塩を擦りこむのはやめてくれ。

「へぇ〜……まあいいや、面白いから黙っててやるよ。私の友達は絶対売らないけど」

 バレたときが見ものだと目を細める硝子の真意はわからないがこいつも大概性格が悪いのは間違いない。
 次の機会がいつになるかはともかく、今度好きになる人は俺のこういう恋愛の失敗や足掻きを笑わない人がいいなとぼんやり考えてけむたい空気に息を吐いた。