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「#幼馴染」のBL小説を読む
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 強い力を持つ悪魔は敬われるが、それが精神に作用する能力となると往々にして疎まれることが多い。オロバス・ココの家系能力『幻燈』もトラウマを想起させる精神攻撃という性質のため例に漏れず第一印象から周囲に警戒されてしまう。最近では2番信仰とかいうわけのわからない誤解がとけたおかげでココ自身に親しみをもって接してくれる者が増えたが、それでも家系能力については極力話題を振られず腫れ物のように扱われているのが現状だ。
 だから「俺に幻燈を使ってほしい」という申し出を受けたときには思わず素で「は?」と返してしまった。
 おかしな頼み事をしてきたのは収穫祭以前、噂のせいで孤立していたころからたびたびココにちょっかいをかけてきていた男だった。
 ココが周囲に馴染むのに比例するように最近ではあまり話しかけてこなくなっていた━━別にそれを気にしたりだとか、寂しく思ったりはしていない━━男が真っ直ぐにこちらを見つめている。

「そ、れは、私の家系能力がどんなものかわかって言っているのか?」

 思わず舌がもつれたのを誤魔化すように眼鏡に手をやる。馬鹿なことを聞いたと思った。オロバス家の家系能力は有名だ。幻燈の名称まで知っていてその内容を知らないはずがないだろうに。
 小さな失態に焦るココに対し、男は気にした様子もなく「ちょっと確認したいことがあって」と告げた。ここで言葉を濁すということは確認したいこととやらの内容を教える気はないのだろう。
 まあトラウマといっても軽く、短時間使うだけなら再起不能なまでに精神を傷つけることはないはずだ。ただ、間違いなく不快にはなる。

「ダメ?」
「…………少しだけだぞ」

 自分の能力で不快にさせることと自分にしかできない頼みを聞いてやること。ふたつを天秤にかけ、両手を合わせて見上げてくる男にむけててココは渋々能力を発動させた。
 幻に囚われるまで数秒もかからない。男の目はすでにココを見たまま、何か他のものを映しているはずだ。

「……ああ、うん。やっぱり」

 男がどんなトラウマを見ているのか術者であるココにはわからない。けれど曇った瞳でココを見つめるその表情は妙に切なげで、それでいて愛おしいものを見ているように優しくて、ただ向かい合っているだけなのに自分もなにかの魔術をかけられているのではないかと疑いたくなるほど胸がざわついた。
 まるで苦しい恋でもしているような顔を見ていたくなくて手早く能力を解除する。
 「ありがとう」という精神攻撃に対するものとは思えない礼を聞きながら、ココはふといまの自分が幻燈にかかったらどんなトラウマを見るのだろうとぼんやり考えた。