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 好きですと伝えても冗談扱いで流されることは想定済みだった。
 ボルサリーノ先輩は比較的ゆるい人だが優しいかといえばまた別で、気持ちは嬉しいけど、なんてわざわざ気を遣ったふりかたをしてくれる性格はしていない。同じ職場で比較的仲よくしてもらっているほうだから今後の面倒を避けるために「なに馬鹿なこと言ってんだァ〜?」と小突かれて終わるのが一番ありえそうな展開だと。
 それでも気持ちを伝えたくて人気のない廊下で「好きです」と告白したおれに、前を歩いていたボルサリーノ先輩はニット帽際の眉をきゅっと寄せ、垂れ目を眇めてこちらを一瞥した。

「へェ〜〜」

 反応はそれだけだった。
 踵を返してさっさと歩き去ろうとするボルサリーノ先輩に一瞬ぽかんとして、慌てて追いすがる。

「えっ、ちょっ、待ってください!返事……返事をっ、歩くのはえェ!」

 コンパスの違いといえばそれまでだが普段のボルサリーノ先輩はおれが小走りになっても追いつけないような機敏な歩き方は絶対にしない。なんだなんだと必死に走り、腕を掴む。と、掴んだ手を乱暴に振り払われ「えっ」と思っているうちに先輩の額から外されたサングラスを押し付けるようにして無理やりかけさせられた。
 そして視界が一段暗くなるのとほぼ同時、サングラス越しでもなおまばゆさを感じる光に目をくらまされる。

「──えっ…………う、わっ!」

 反射的に瞑った目を恐る恐る開いた先にボルサリーノ先輩の姿はもうなかった。光になって逃げたらしい。

「……いや、真っ赤だったじゃん」

 サングラスを押し付けられながらはっきり目にしたボルサリーノ先輩の耳は、普段とは明らかに違う羞恥の色をしていた。
 最初から光になって逃げなかったのは出来るだけ自然に立ち去るのがベストだったからだろう。告白されて動揺しているのを気づかれたくなかったようだが、それで逃走に失敗した挙句あんなものを見せられてしまったらあとでどんな言い訳をされたとしても誤魔化されてあげようがない。
 これはさすがに想定外だったな。
 百パーセント上手くいかない前提で告白をしたおれは今しがた見た好きな人の可愛い顔を思い起こし、呆然とした気持ちで歪んでしまったサングラスのつるを弄った。