「グラディウスはいつも何かにイライラしてるからその状態が普通になっちゃってて自分が何に対して苛立ってるかわかってないのよ」 冷静に話しをするためにも一度グラデウスの言うとおりにしてみたらというベビー5の助言に従いグラディウスの部屋を訪ねてみたものの、顔を合わせただけの段階からすでにイライラして帽子を膨らませている姿を見るとどうにもうまくいく気がしなかった。 だいたい女にだらしないのが気に食わないというグラディウスの主張自体言いがかりもいいところなのだ。ファミリーが親をやってる娼館を使ってるだけなんだから海賊としてはむしろ綺麗な遊びかたをしているほうだろうに。 「なんの用だ」 「あー……ちょっと話があって」 「だから要件はなんだと聞いている」 どんどん苛立ちを増していくグラディウスに昔はここまでひどくはなかったのにと内心でため息をつく。そう、昔はもう少しマシだった。好かれていたとは言えないけれどそれでも今よりよほど普通に話せていた。 せめてあの頃に戻れたら。そんな一縷の望みにかけて考えてきた内容を話しはじめる。 「お前に言われて考えたんだ。確かにそろそろちゃんとしたほうがいいかなって」 「…………は?」 「だから、もう女遊びはやめて本命一筋に━━グラディウス?」 本命以外に手を出さないと誓った場合おれは一生人肌の温もりを得られなくなるんだがと苦々しく思いつつベビー5のアドバイス通り誠実に一人だけを愛する男になるというアピールをするうち、もともと血色がいいとはいえないグラディウスの顔色が目に見えて一段悪くなった。いまにも破裂しそうだった帽子が萎んでマスクの下ではくはくと唇が動くのが見えたが言葉はなかなか出てこない。 「なん……なんだ、なにを急に」 「急にっていうか、ずっとグラデウスに言われてたことだろ?」 今更だけどちゃんとするからこれからはもう少し普通に接してほしいと頭を下げるとグラディウスは呆然としたように「ふつうに」と呟いた。 女にだらしないところが苛立ちの原因ならそこを直せば嫌う理由はなくなるはずだ。そしてもしそれでもグラディウスがおれを嫌いなままなら苛立つ理由は他にある。 冷静に話し合えるようになりさえすれば聞き出して、直して、それを繰り返すことでいずれは関係を改善できる、かもしれない。 かもしれない、だ。 一生分の他人の温もりを捨てなきゃ本命に普通の対応を求める足掛かりすら得られないなんて、なんとも世知辛い話である。 |