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「#幼馴染」のBL小説を読む
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 ミラからの最初の告白は任務で潜入している最中だった。一目見て素敵だと思った、話しをしてもっと知りたいと思った、俺をきみのものにしてほしい。そんな熱烈な愛の言葉をアトリは心の中で薄っぺらいなぁ〜と嘲笑い、それでもまああまり面白みのない任務の間の暇つぶし程度にはなるかと笑顔で「いいよぉ」と了承した。
 実際いい暇つぶしにはなったと思う。好みのタイプからはハズレもハズレだがいちいちドギマギと初心な反応をする様子は見ていて面白かったし、かと思えば意外と話し上手な面もあってアトリの知らない雑学を交えた会話はどれだけ続けても飽きないほどだった。
 互いに無言になれば適当に温かな身体を枕にして眠り、起きたらうまい物やそれほどうまくない物を食べてああだこうだ言いながら笑いあう。それは暇つぶしで了承した関係がもたらしたにしては実に充実した時間だった。
 それでもアトリは悪名高い六指衆で、壊すのが大好きで、お気に入りのものほど壊すときに楽しいのだと知っていたので任務の終わりにはその心地よい関係もミラの体ごときっちり壊して終わりにした。
 嘘だどうしてアトリなんでと喚く声は想像通りとても心地よく、声が聞こえなくなるのが惜しくて念入りに念入りにいたぶって、結果ミラは動かなくなった。
 ぴくりとも動かなくなったミラを見ているとなんだかしらけてきてしまってつまんねぇのと思ったがオモチャは壊せば動かなくなるものだ。動かないオモチャがつまらないのは当然で、気に留めることなどなにもない。
 アトリはふんと鼻を鳴らしてミラの体をつま先で蹴り上げ、反応がないのを確認してもう一度鼻を鳴らし仲間と落ち合うためにその場から歩き去った。


***


「好きです!俺をあなたの恋人にしてください!」

 間違いなく死んで、もう二度と声を聞くこともないと思っていた男に二度目の告白をされたのはマジカルストリートをぶらぶらしているときだった。
 声をかけてきたミラにはアトリの記憶がなかった。おそらくアトリが死んだものと判断して立ち去ったあと奇跡的に生き延びてウエトトの魔術で記憶を消されたのだろう。
 なにもかも全部忘れたくせにそれでもなおアトリを見つけて、殺されかけたくせに殺されかけたことも知らず往来でナンパしてきたその愛情深さ、執拗さ、それよりなにより運の悪さときたら。

「━━いいよぉ」

 後ろから腕を掴んで初対面で愛の告白なんて大胆なことをしておいて相変わらず初心な子供みたいに顔を真っ赤にしている男にアトリは思わず大笑いしたくなるのを堪え、にんまりと、一度目の告白より深く恍惚とした笑みを浮かべた。
 それからは同じことの繰り返しだった。告白されて付き合って、関係が深くなったら蹴って殴って首を絞めて、苦しんでいる姿を堪能したらウエトトに頼んでアトリに関する記憶を消してもらう。破壊と創造の円環。これはまさにアトリの理想だった。
 どれだけいたぶろうが何度記憶を消そうがミラは必ずアトリを見つけて恋に落ちた。そのたびにアトリは陰でひぃひぃ笑いころげ、恋人としての時間とすべてをぶち壊しにする時間を楽しんだ。
 きっとうっかり力加減を間違えてミラを殺してしまうそのときまでこの愉快な日々は続くのだろうと本気で思っていた。
 そんな予想を裏切られたのは、またかと若干面倒くさそうにしつつウエトトがアトリの数度目の『お願い』を叶えてくれたしばらく後のことだった。
 ミラが今回アトリを見つけ出して見初めるはずの場所で、ミラと女が腕を組んで歩いていた。よりにもよってアトリとは似ても似つかない、ミラより小さくてくりくりした目の女だ。
 おいおい、違うだろ。
 咄嗟に思い浮かんだのはそんな言葉だった。
 ミラと不釣り合いな身長差で腕を組んで歩くのはアトリのはずで、恥ずかしげな顔も愛おしそうな視線も薄っぺらい愛の言葉も受け取ることができるのはアトリだけのはずで、それが揺らぐなどあるわけが、あっていいわけがない。
 まとめて殺すのは簡単だった。捨て置くことも簡単だった。普段のアトリならどちらかを選んでいただろう。だがこのときのアトリはいつのまにか、いや、もしかするととっくの昔に普通ではなくなってしまっていた。
 表情を削ぎ落とした顔で見つからないよう慎重に尾行し、二人が別れた瞬間に反応を楽しむこともなく女の命を一撃のもとに刈り取る。女がこの世に存在する時間をこれ以上一秒だって長引かせたくなかった。それほどまでに不快だった。

「んあとはぁ〜……またウー兄に魔術お願いしなきゃなぁ〜」

 今度はアトリに関してではない。
 女だ。あの女の存在を、ミラの記憶からも物証からも、なにもかも消し去ってもらわなければ。
 別にいま会ったって、きっとミラは自分に惚れるにちがいない。絶対そうだ。女のことなんかすぐに忘れていままでどおりアトリに夢中になるだろう。
 でももし、万が一そうじゃなかったら。
 会っても無反応だったら。
 いや、そもそも女の記憶を消しても、それでもなおミラがアトリに惚れず、今後ずっと小さくてくりくりした目の女の面影を追うようになってしまったら。
 考えてじわりと胸に湧き出したものから目を逸らすためにアトリはわざと乱暴に女の死体を蹴りあげた。いつだったかミラの死体もどきにやった拗ねたようなそれとは違う、本気の蹴りが華奢な骨を砕く。
 慣れているはずのそんな感覚すらミラを奪った女由来だと思うと至極不快で、アトリは「あ〜〜もう!」と苛立ちの声をあげると哀れな女の死体を抱え路地裏に姿を消した。
 素性を探ってウエトトに見せてミラの中から記憶を消してもらったら速攻で廃棄処分だ。
 なんて腹立たしい。
 ミラの記憶を消したことを後悔するなんて。愛されないかもしれないことを恐ろしく思うだなんて。
 大切にすればよかったなんて、こんな最悪でつまらないクソみたいな感情、できれば一生知りたくなかった。