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 幼い頃からいまに至るまでずっと弟との二人部屋だったため寮生活になると聞いたときはその経緯はどうあれテンションがあがった。長年親に訴え続けてももらえなかった一人部屋だ。そりゃあもう、いやがおうにも爆上がりである。
 まあ憧れていたとはいえインテリアなんてまともに考えたことがなかったし入寮まで時間もなかったのでお値段以上の店で適当にいい感じのを一括購入。ちなみに俺が知る限り一番の一人部屋のプロである瀬呂に相談したら輸入雑貨の店とかいろいろ紹介してくれたが普通に高くて諦めた。八百万やら轟やらに隠れて目立ってないけどあいつん家絶対金持ちだわ。
 どうせおれには瀬呂みたいなセンスないし快適に暮らせれば問題ないだろう。
 そう思ってどうにかこうにか無難な形に仕上げたところでクラスのみんなで部屋の見せ合いっこが発生した。やめてくれ、そんなイベント聞いてない。「一人暮らし初心者って感じ」「全アイテムから新品のにおいがする」「これからどんどん汚くなりそう」と残等すぎる評価が地味に心を抉る。軽めの地獄だ。もっとちゃんと凝ればよかった。

「おおっ!」
「エイジアン!」

 そして残当なコメント以外特に掘り下げられることのなかったおれの部屋に対しプロのお部屋はあきらかに高評価だった。女子に褒められて得意げな様子に腹が立ってじとりと睨むとニヤニヤ笑い返されて余計に腹が立つ。なんだその顔、なかすぞ。
 しかし粗を探そうにもプロの仕事は完璧である。おれの記憶にある瀬呂家の部屋も同じアジア系だが色味や小物で雰囲気が違っていて、これには腹立たしさよりさすがという感心が上回るほどだ。ああでも諸々変わってもディフューザーはおれの好きな香りのやつ続投なのか。これの前に使ってたやつもお香っぽくていい匂いだったんだけど長時間嗅いでると頭が痛くなっちゃってダメだったんだよな。
 気を使わせないよう我慢してたつもりだが普段通りとはいかなくて、ノリの悪さや表情の硬さを察した瀬呂を不安がらせてしまったのは反省すべき過去である。
 気に入ってたはずのアロマをおれがつらいならって理由で即変えてくれたエピソードをいまここで披露すれば瀬呂ルームの評価はさらに上がるだろう。
 まあ瀬呂に対する女子の好感度上げてやるメリットが何一つ思いつかないから披露してやる気はさらさらないけどととりとめのない思考を着地させる、と同時、緑谷がくんとにおいを嗅いで「あっ」と何かに納得したような声を上げた。

「どうした緑谷」
「いや、たいしたことじゃないんだけど、市井くんと瀬呂くん同じ匂いがするから一緒の香水使ってるんだなって思ってたんだ。でもあれ香水じゃなくて部屋のアロマの匂いだったんだね」

 悪気のない指摘に一瞬心臓がキュッとなった。が大丈夫。緑谷に悪気はない。悪気がないというのはつまり気づいていないということだ。
 おれの部屋を見たあとなら瀬呂みたいにディフューザーなんて小洒落たものを部屋に置くタイプじゃないのは丸わかりだから緑谷が想像してた香水みたく「同じのを使ってる」って言い訳は通らないだろう。だがおれが瀬呂の部屋にいりびたってたって友達としてなにもおかしくない。大丈夫!反応しなければばれっこない!いける!

「あー、おれの家狭いから遊ぶときだいたい瀬呂んち行くんだわ。勉強したりゲームしたりで泊まらせてもらうこと多いから制服に匂い移ってんだろうな」

 肝心のところを伏せているだけで嘘ではない言い訳を口にして「な、瀬呂!」と同意を求めるべく視界の外にいた瀬呂へと笑顔で振り向く。
 そして瞬間、おれはごまかしの失敗を悟った。

「え、瀬呂くん顔赤……えっ!?」

 移香に深い意味があるとしか思えないあからさまな動揺と羞恥の表情。
 おれ以外にそんな顔見せてんじゃねぇよ馬鹿範太。