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 ロディと別れることになった。いや、そもそも付き合ってたのかって聞かれても自信をもって頷くことはできなかったんだけど。
 野良の仔犬に懐かれて見捨てることもかといって養うこともできず途方に暮れていたロディと、そんなロディの事情を知って見捨てることができず飼い主探しを引き受けた俺。底辺で将来詰んでるロディと底辺すれすれでギリギリ詰んでないだけの俺。はたから見れば、というかロディからすれば傷の舐め合いのような関係だったと思う。
 なにせロディは仕事と幼い弟と妹の世話で忙しかったし俺も詰みかけの人生をどうにか立て直すのに必死であまり時間はとれなかった。少ないプライベートの時間では会ってもキスしてセックスしてそれで終わりだ。
 プレゼントをしようにも懐に余裕はない。そもそも施されるのを嫌がるロディに渡せるものは限られていた。二年あまりの付き合いで受け取ってもらえたのは木を削って作ったアクセサリーだとかピノを模した小さなぬいぐるみだとか、腹の足しにもならない役立たずの安物ばかり。それだって受け取るときのロディは微妙な顔をしていた。ピンクの羽毛を膨らませて喜び嘴でくわえて離さなかったピノの存在がなければ家に帰ってすぐ捨てられていたかもしれない。きっと今頃は彼の寝床の飾りにでもなっているのだろう。
 そんな中身のないスカスカな関係でも俺はロディのことが好きだった。将来について真面目に考えどうにかして安定した職と定期的な収入を得られるよう足掻こうと思えたのもロディがいたからだった。夢も希望も持てる状況にないロディを俺の手で引き上げ、一緒に明るい道を歩いていくための力がほしくて寝る間も惜しんで努力した。
 ━━全部独りよがりだった。知らぬ間にでかい事件に巻き込まれて心境に変化があったらしいロディは俺が引き上げるまでもなく一人で明るい道に戻り、詰んでいたはずの人生を自力で切り拓く覚悟を決めたようだった。

「独学で勉強したいことがあるから会えなくなる」

 強い光を灯した真っ直ぐな目だった。
 待ち合わせの定番だったいつもの場所、いつもの時間にそう告げられたとき、別れを惜しむように駄々をこねてくれたのはピノだけだった。そんなピノを鷲掴みにして辟易とした顔で俺から引き剥がしたロディには惜しむ気持ちなど微塵もないのだろう。
 用があったら店に来てくれと新しい勤め先の住所を教えられたが、世界の滅亡に関わる用でもない限りその扉をくぐることはないと思う。
 ロディの人生の邪魔はしたくない。顔を見たらきっと未練たらしく絡んで邪魔をしてしまうから、会いにはいけない。
 ふと空を見上げると視界の端にロディと出会うきっかけになった犬がいた。開いた窓から俺のほうを見て舌を出して笑っている。きっと千切れるくらい尻尾を振ってくれているのだろう。犬の笑顔につられ、随分と自分に懐いてくれていたピノとそれを苦々しそうな顔で見るロディを思い出し自然と笑みがもれた。
 独りよがりだったけど愛していたのは本当だった。ロディが俺を必要としなくなったことは悲しくはあるが喜ばしいことなのかもしれない。
 今後俺の見ていないところで悲しんだりしないように。勉強の成果が実って、やりたいことをやれるようになって、傷のなめ合いをする関係なんて二度ともたなくていいように。
 まっとうに、幸せに生きてほしいと願うばかりだ。